残された者は

[ 2017年8月22日 10:00 ]

ル・マン24時間レースを制し、喜ぶポルシェ2号車のドライバーたち (AP)
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 【我満晴朗のこう見えても新人類】ル・マン24時間レースで3年連続優勝を果たしたポルシェが、今季限りで世界耐久選手権(WEC)LMP1クラスから撤退するという。

 7月末に入ってきたこのニュースを聞いて複雑な気分となった。レース界でのポルシェは「耐久王」のイメージが強い。1980年代の「956」「962」「962C」あたりが代表的だ。トヨタ、ニッサン、マツダの日の丸3メーカーが束になっても全く及ばない速さと頑丈さを目の当たりにしているだけに「えっ、やめちゃうの?」というのが素直な感想。前述の通りル・マンでは連勝中なのだから、成績不振での退却ではない。むしろ勝ち逃げ、いや失礼、「勇退」か。

 で、来年以降はどうするのか。なんと2019年からフォーミュラEに参戦するのだそうだ。ご存じ、電気自動車(EV)版のF1。14年にスタートし、現在は10チームが年間14戦をこなすスケジュールだ。ポルシェ的にはハイブリッド車を進化させるより、EV開発を優先させたことになる。

 それも当然だろう。ポルシェ本社のあるドイツは内燃機関を持つ自動車の製造・販売を30年以降は禁止する方針を昨秋に打ち出した。これに追随するかのようにフランス、イギリスも今夏、相次いで同様の政策を発表(時期は40年以降)。オランダも彼らに続く意思を見せている。つまり、欧州主要国を市場とする製造者は「エンジン」ではなく「モーター」を動力とする大衆車を生産しなければならない。

 ハイブリッドやダウンサイジング・ターボでいくら燃費を改善しても、排ガスを出すクルマはアウト。トヨタ・ミライのように水素での燃料電池自動車という選択肢もあるが、インフラなど現実面を考慮するとEV開発が手っ取り早い。そのためなのか、フォーミュラEにはアウディ、DS(シトロエン)、ジャガー、ルノーなど有力メーカーが参戦中。将来的にはポルシェだけでなくBMW、メルセデスも加わる予定だ。意外と早く、EVの時代がやってくるかもしれない。

 その前に、来年のWECはどうなるのだろう。かつての強豪アウディは昨年限りで撤収。そしてポルシェも去るのだから、単純に考えればトヨタの独り勝ち確定だ。ル・マンも悲願の初制覇を果たす可能性が高い。それはそれで喜ぶべきことかな?いや。好敵手のいないレースで楽勝し悦に入るほど狭量なメーカーではないはずだ。

 閑話休題。ついこの間まで押しくらまんじゅうのような取材現場だった藤井聡太四段の対局も、最近は半分どころか1割程度の報道陣しかいない。筆者にとってはライバルが激減したわけで一安心、という小心翼々ぶりでして。 (専門委員)

 ◆我満 晴朗(がまん・はるお)1962年、東京都生まれ。ジョン・ボンジョビと同い年。64年東京五輪は全く記憶にない。スポニチでは運動部などで夏冬の五輪競技を中心に広く浅く取材し、現在は文化社会部でレジャー面などを担当。たまに将棋の王将戦にも出没し「何の専門ですか?」と尋ねられて答えに窮する。愛車はジオス・コンパクトプロとピナレロ・クアトロ。

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