シシド・カフカ 書道で学んだ「緩急」 ドラムも演技も緩やかに滑らかに

[ 2017年7月4日 09:50 ]

達筆を披露するシシド・カフカ
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 【夢中論】激しくドラムを叩きながらパワフルに歌うスタイルで活躍するシシド・カフカ(32)。プライベートでは、筆と墨で文字の美しさを表現する書道に魅せられている。“動”の仕事に対し“静”の趣味。緩急を付けた表現やリズムこそ、人の心に響くことは書道から学んだ。

 筆を右手に持ち、机の上に広げた和紙をじっと見つめる。集中力を高めて筆を下ろすと、筆は時に鋭く、時に緩やかにリズムを刻んで動く。それはまるでドラムのスティックさばきのようだ。

 「筆が紙につく瞬間の力の入れ方、筆の角度で全てが変わるので凄く集中する。書いてる間はとにかく夢中。終わった時は“やってやったぞ”とすっきりしてますね」

 書道を始めたのは7、8年前。占い師から「あなたのラッキーカラーは白と黒。モノクロ写真や書道が向いている」と言われて書道への興味が高まっていた時、アルバイト先の立ち飲みワインバーに書道の先生が来店。「教えてください」と頭を下げ、書道教室に入った。

 「当時は私の“暗黒時代”。(ドラマーや歌手として)デビューを目指していたけど全く芽が出なくて、バイトして寝るだけの生活だった。何をしたいのか、音楽が好きなのかも分からなくなっていた。新しい一歩を踏み出せることがうれしくてしようがなかったんです」

 今は月2回の書道教室に通い、自宅で筆を執ることもある。「書く時は前日から体の準備をします。お風呂に入ってストレッチして十分睡眠を取って。ライブと同じくらいの準備をしますね。そうしないと思うように筆が運ばない。何かを表現する時、心身の状態が作品や音に出やすいタイプかもしれない」

 ドラムは、親の仕事の都合でアルゼンチンで暮らしていた14歳の時に叩き始めた。その前から、ドラムの「一歩引いた立ち位置」が好きで親にせがんでいたが、現地の生活になじもうとしない娘を見かねて、親も始めることを許してくれた。帰国後、ドラマーとしてバンドに参加したこともあったが、勧められて歌い始め、ドラム&ボーカルのスタイルになった。

 書道で学んだのが「緩急」を付けて表現することの大切さだ。教室で初めて字を見てもらった時、先生から「真面目な子やね。もうちょっと力を抜こうか」と笑われた。

 「真っすぐな太い字は比較的最初から書けたんですけど、曲線や細い字が苦手。性格的にも柔軟に対応するとかができない」。ドラムも同じ。「(力強い)エイトビートは得意なんですけど、揺れる感じとか、色気ある曲になった途端に弱かった」

 どんなに情熱的な力強い表現でも、それ一辺倒では心に響かない。書道でいい作品を書けるのは、軸になる部分は太く真っすぐ、曲線やはねる部分はふわっと力を抜けた時。このことに気が付くと、音楽の仕事でも力を抜けるようになった。「(書道と音楽では)やっていることは全然違うけど、力を抜くってこういうことかと学んだ。今は力が入った自分がどれほど固まった状態になっているか分かるようになった。緩やかに、滑らかにというのが私のテーマ」

 演技にも生かされているという。2014年10月期のフジテレビ連続ドラマ「ファーストクラス」で女優デビュー。これまで3作のドラマに出演した。「演技する時は(役の)心の動きを一緒にたどりながら言葉を発しないとちぐはぐになる。この心の動きを私は緩急と捉えている」。放送中のNHK連続テレビ小説「ひよっこ」には、主人公が暮らすアパートの住人役で出演。前髪を上げた“おでこ全開”スタイルで視聴者を驚かせた。「自分では違和感ないんですけどね。それよりカチューシャの方が抵抗があった」。ずばずばとした物言いの裏に優しさを隠す難役だったが丁寧に演じ女優としての幅を広げた。

 書道はこれからも「細く長く」続けていくつもりだ。「満足いく字にまだまだたどりつけない。性格的には1+1=2と言える方が楽なんですけど、音楽とか書道とか答えのないものにばかり手を出してしまう。自分にない感覚を取り入れたいんでしょうね」

 半紙には雨の季節にちなんで「雷鳴」としたためた。「まだ無駄な力が入っているかな」。そう言って見せた柔らかな笑みが印象的だった。

 ≪書道教室のニックネーム「キャンディー」の“きゃ”≫書道教室では「きゃ」というニックネームを使っている。生徒にニックネームを付けるのが好きな先生に「誰も絶対に付けないものを」と命名されたという。最終的には「ディーバ」か「キャンディー」のどちらがいいか聞かれたといいシシドは「ディーバと呼ばれて振り返るのがイヤなのでキャンディーにしました。それを縮めて“きゃ”」と笑って明かした。

 ◆シシド・カフカ 本名非公開。1985年(昭60)6月23日、メキシコ生まれの32歳。両親ともに日本人で、シシドは本名(宍戸)。カフカはチェコ語で「カラス」の意味で、黒い服を好むことから命名された。12年5月に配信曲「デイドリームライダー」でデビュー。同9月に「愛する覚悟」でCDデビューした。身長1メートル75。

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