中江功監督 月9「貴族探偵」相葉撮了日に熾烈150カット 最後は顔の演出

[ 2017年6月26日 09:00 ]

嵐・相葉雅紀の最終撮影となった「貴族探偵」最終回の天幕のシーン(左から中山美穂、滝藤賢一、武井咲)(C)フジテレビ
Photo By 提供写真

 嵐の相葉雅紀(34)が主演を務めるフジテレビ“月9”ドラマ「貴族探偵」(月曜後9・00)は26日、15分拡大で最終回(第11話)を迎える。相葉は今月中旬にクランクアップ。最終日は一連の推理シーンに半日をかけ、メイン演出を手掛ける中江功監督(54)が150カットを重ねる“執念”の撮影。相葉が2015年4月クールに“月9”初主演した「ようこそ、わが家へ」でタッグを組んだ名匠の今作最後のディレクションとは――。中江監督が3カ月の撮影を振り返り、秘話を明かした。

 原作は、日本推理作家協会賞と本格ミステリ大賞をダブル受賞した2011年の「隻眼の少女」など、推理小説の常識を覆す作品を世に送り続けている俊才・ 麻耶雄嵩氏の「貴族探偵」「貴族探偵対女探偵」(集英社文庫)。「貴族探偵対女探偵」は14年に本格ミステリ・ベスト10の1位。己を「貴族」と名乗り、年齢も家族も住所も本名も不明という探偵(相葉)が召使いに推理を任せ、自分は事件関係者の女性との会話を楽しみ、遊びに興じながら優雅に事件を解決に導く姿を描く。新米探偵・高徳愛香(武井)は事あるごとに事件現場で貴族探偵に出くわし、推理対決を繰り広げた。「ようこそ、わが家へ」のスタッフが再集結した。

 相葉は今月中旬にクランクアップ。撮影最終日は、毎回推理が行われるヤマ場・天幕のシーンだけに費やした。台本12ページにわたる一連の8シーンを、丁々発止の緊迫感とテンポを大切にしたいと、頭からお尻まで舞台のように通して撮影。これを15回以上繰り返した。その間、様々な角度から撮影し、実に150カットを重ねた。

 昼すぎに始まった撮影は日付が変わり、午前1時すぎに終了。相葉の最後の演技はシーン37、147カット目。すべての真相が明らかになり、大団円を迎えた際の貴族探偵のアップ。テイク1の後、中江監督は「もっと顔のアクションを減らして」と相葉への最後の注文をし、テイク2。そこには、中江監督“最大のこだわり”が込められていた。

 中江氏は「愛という名のもとに」「ひとつ屋根の下」「この世の果て」「ピュア」「眠れる森」など1990年代の数々の名作・ヒット作を演出。2000年以降も「空から降る一億の星」「プライド」「Dr.コト―診療所」シリーズなどを手掛けた。出演者の表情や手の動き、セリフのスピードはもちろん、エキストラの動きや小物の位置から空の色まで細部に妥協を許さないことで有名。今回、最も追求したのは、主人公・貴族探偵のキャラクター造形。ドラマが始まる前に「新しいヒーローを作りたい」と語っていた。

 中江監督らスタッフは貴族の研究者やマナー研修の講師らを取材し、貴族の立ち振る舞いや言葉遣いを研究。しかし「ロボットのように無機質になりすぎて。撮り終わった時、自分の中で『違うなぁ』と違和感がありました」。スケジュールを再調整し、第1話の貴族探偵の初登場シーンを撮り直した。スケジュールが優先されることが多いテレビドラマにおいては、異例の措置。「貴族は荘厳なものと思いすぎていて、硬いキャラクターになっていたので、もう少し柔らかく、普通の人っぽい、人間味のある人物像に変えました。既成概念に縛られることなく、チャーミングで人間味がある、誰からも愛されるようなキャラクターを作っていこう」と決意。相葉との二人三脚が始まった。

 最初は浮世離れした側面が目立った貴族探偵だが、回が進み、怒りや悲しみが徐々に表れるにつれ、SNSは盛り上がり「本当の感情が読めず、怖い」という声も相次いでいる。

 中江氏は「このドラマには2つのミステリーがあって、1つは毎回起こる事件。もう1つは貴族探偵の本当の姿です。むしろ、これまでの事件すべてが、最後に明かされる貴族探偵という人物の真相への伏線だと言っても過言ではありません。なので、なるべく貴族探偵が根っこで抱いている思いは読めないように、何を考えているか分からないようにしようと思って、相葉君には演じてもらいました」と演出の意図を説明。それは、相葉の最終撮影で「もっと顔のアクションを減らして」とリテイクを行ったことにつながる。

 ドラマのエンドロール冒頭。イスに腰掛け、澄ました顔の貴族探偵が登場。すると、大きな虫眼鏡が現れ、顔の部分を通過。その一瞬、葉巻を手にし、表情を緩める。このような演出は他のキャラクターにはない。中江監督は「何か(虫眼鏡)を通して見ないと、本当の貴族探偵の顔は見えてこない、という僕なりのヒントですかねぇ」。“細かすぎる”演出が徹底されている。

 クランクアップに際し、相葉は「この現場を乗り越えたというか走り切れたというのは、すごく自信につながると思います」と手応え。相葉にレベルアップを促し「(役作りに)悩むのはいいこと」と“愛のムチ”を入れた中江監督は「『貴族探偵とは何者なのか?』という謎を最後まで分からせないことは、最重要テーマの1つだったので、そういう意味で私と相葉君のミッションは成功したと思っています。今回は言葉や仕草や表情から一切、読み取られないようにしてみるという、ある意味、危険な芝居に挑戦していたので(笑い)。『ようこそ、わが家へ』の時もそうでしたが、相葉君は最後は始まった時と顔も自信も全く違っていたように見えました。頼もしかったです」と3カ月の撮影を振り返り、相葉を称えた。

 貴族探偵は何ゆえ愛香と頻繁に事件現場で遭遇していたのか、貴族探偵とは何者なのか、さらにはドラマ「貴族探偵」とは何だったのか…。これまでの物語がすべて逆転する、トリックアートのような「貴族探偵」の全貌が姿を現す最終回。相葉=貴族探偵の最後の表情を刮目したい。

続きを表示

2017年6月26日のニュース