超大穴・荻野由佳の大逃げにわくAKB総選挙レース

[ 2017年6月3日 10:30 ]

新潟市のNGT48劇場での公演で速報1位を聞いて、号泣する荻野由佳
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 【牧元一の孤人焦点】久しぶりに「AKB」を感じた。もちろん、AKBはずっとあったのだが、最近は以前より存在感が希薄になっていた。本来のAKBとは何か。ひと言で表せば、予定調和がないグループである。われわれが予想した結果には決してならない。予想を裏切ることで驚きを与え、物語を生み、感動を作る。それが国民的アイドルグループにまで上り詰めた原動力でもあった。

 選抜総選挙の速報発表でのNGT・荻野由佳の1位。当日、現場で取材していて一瞬、頭の中が真っ白になった。1位は指原莉乃、渡辺麻友、松井珠理奈のうちの誰かがなると予想し、原稿の準備を進めていた。ところが、4位で渡辺、3位で指原、2位で松井が名前を呼ばれてしまった。では、1位は…?峯岸みなみ(結果的に圏外)くらいしか思い浮かばない。疑心暗鬼になったところで発表された名前が荻野だった。ぼうぜんとした。全く彼女の原稿の準備をしていなかったからだ。原稿の締め切りまで残り30分弱。彼女のことは知ってはいるが、詳しくは知らない。あわてて過去の資料を読み直し、新たな取材も加えて芸能ページのトップ記事をなんとか書き上げた。焦った。時間がなくて苦しかった。でも、楽しかった。予想が裏切られることの面白さを十分に味わった。これこそが本来のAKBではないか、と思った。

 なぜ荻野が1位だったのか。その分析はできていないが、現象としては理解できる。AKBのファンは怒るかもしれないが、競馬のレースに例えると分かりやすい。総選挙に立候補したメンバーを馬、投票するファンを騎手だと考える。例えば指原はオルフェーヴル、渡辺はディープインパクトだとする。レースは日本ダービー。ようやく出走権を得た馬の騎手はどのような作戦を考えるか。まともに走ってもディープインパクトやオルフェーヴルに勝てるはずがない。せっかくの晴れの舞台の実況中継で名前すら呼ばれない可能性もある。どうすれば勝つチャンスが生まれるか、はたまた存在感を発揮できるか。その答えが、スタートダッシュからの大逃げだ。荻野の速報1位は、東京競馬場の向正面で、逃げ馬が後続馬を10馬身ほど離して走る姿を思わせた。

 大逃げした馬がレースを制するのは容易ではない。最初から力を使った分、最後の直線で力が尽きるからだ。しかし、大逃げによってスタンドから大歓声が上がり、多くの人がその名を認識する。ディープインパクト、オルフェーヴルに乗った騎手も、うかうかしていられない気持ちになる。レースは確実に面白くなる。

 最後の直線はどうなるだろう。荻野は意外に粘るに違いない。速報値で獲得した5万5061票は、昨年12位の北原里英が最終的に獲得した5万190票を上回っているのだ。入着(16位以内の選抜メンバー入り)の可能性は十分にある。トップ争いは指原、渡辺、松井、宮脇咲良の4人で、上がり3ハロンで指原が豪脚を披露するだろうというのが大方の予想だが、さて…。今年は万馬券の予感がある。何しろ、何が起こるか分からないのがAKBなのだから。 (専門委員)

 ◆牧 元一(まき・もとかず)編集局文化社会部。放送担当、AKB担当。プロレスと格闘技のファンで、アントニオ猪木信者。ビートルズで音楽に目覚め、オフコースでアコースティックギターにはまった。太宰治、村上春樹からの影響が強い。

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2017年6月3日のニュース