こじはるがAKB48を去った意味

[ 2017年4月22日 10:00 ]

終演後、劇場バルコニーに立つ小嶋陽菜
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 【牧元一の孤人焦点】「……ロス」なんて安易な言葉は使いたくないが、AKB担当記者として、小嶋陽菜が卒業した喪失感があまりに強いことに戸惑っている。前田敦子、大島優子が卒業した後もこんな感じだっただろうか。でも、少なくともあの頃はまだ高橋みなみもいたし、小嶋もいたわけだから、これほどは気持ちが揺れなかったような気がする。今や、AKBの創設時のメンバーで残っているのは峯岸みなみだけとなった。

 4月19日の卒業公演で印象的だったのは、アンコールの最後に「夕陽を見ているか?」が披露された場面だ。この曲は前田と小嶋がダブルセンターを務め、2007年に発売されたシングルで、グループ屈指の名曲として知られている。この日は前田が出演せず、同期の高橋、峯岸が代わりに盛り立てたが、心に響いたのは後輩の渡辺麻友、柏木由紀の2人が順番に小嶋に近づいて歌おうとしたシーンだった。

 まずは渡辺が小嶋に近づいて歌おうとした。1期生として長くグループを支えてきた先輩を、自分たち後輩が送り出す大切な場面だ。万感の思いを込めて精いっぱい歌わなくちゃいけない。ところが、その歌声はあっという間に泣き声に変わってしまった。続いて柏木が小嶋に近づいて歌おうとした。渡辺が歌えなかった分もしっかり歌わなくちゃいけない。ところが、その口から出たのは歌声ではなく劇場中に響く大きなおえつだった。

 過去にも公演やコンサートで渡辺、柏木が泣くのを見たことはある。しかし、2人がこれほどまでに取り乱して泣くのを見たのは初めてだった。2人はアイドル中のアイドルと言える存在だが、あの時、アイドルを保つことができなくなり、素の感情をさらけ出した。小嶋の卒業が持つ意味の大きさを、私はあの時に実感した。

 渡辺、柏木の心情を推し量るのは難しい。近く取材する機会があれば聞いてみようとは思うが、あの時の気持ちを正確に言葉にするのはそう簡単ではないだろう。もしかしたら、自分たちでも分析不能な要素があるかもしれない。ただ、間違いないのは、2人が決して親しかったわけではない先輩の小嶋の卒業に対し、かつてない感情の吐露を見せたという物理的な事実だ。この事実はとても重い。

 古き良きAKBが終わる……それが今の私の実感だ。むろん、新しいAKBに魅力がないわけではない。指原莉乃が現在、数多くのテレビ番組で活躍している姿には目を見張るものがある。入山杏奈、加藤玲奈、向井地美音、中井りか、小栗有以ら、キュートで興味深いメンバーもたくさんいる。グループの未来はそんなに暗くはないと思う。ただ、かつてあったものとは同じではない。今それを強く感じるのだ。

 最後に、小嶋が卒業直前に残した言葉を記しておきたい。私の「これからのAKBに望むことは?」という質問に対する答えだ。

 「今まで通りやっていてもダメだと思います。時代が変化していく中で、受け身でやっていても良くならない。新しい風を取り入れて、いろんなことに挑戦してほしいです」   (専門委員)

 ◆牧 元一(まき・もとかず)編集局文化社会部。放送担当、AKB担当。プロレスと格闘技のファンで、アントニオ猪木信者。ビートルズで音楽に目覚め、オフコースでアコースティックギターにはまった。太宰治、村上春樹からの影響が強い。

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