25年後の東京ラブストーリー 柴門ふみ氏が描いた“恋愛の美しい終わり”

[ 2017年2月7日 09:30 ]

アトリエで次回作を執筆する柴門ふみ氏
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 「東京ラブストーリー」の25年後を描いた続編漫画「東京ラブストーリー After25years」の連載が終了し、この1月に単行本が発売された。

 「東京ラブストーリー」といえば1990年代の若者にとって、時代を象徴する名作。小田和正が歌うドラマ版の主題歌「ラブストーリーは突然に」とセットで思い出される。40代の記者も、当時は胸が詰まる思いで漫画とドラマを見た。

 続編は昨年1月にビッグコミックスピリッツ(小学館)で読み切りが発表された後、女性セブン(同)で連載を再開していた。カンチとリカがお互いの子どもの結婚を機に25年ぶりに再会し、リカが相変わらずの行動力で周囲を引っかき回す展開、それに戸惑うカンチも当時と同じで、懐かしくページをめくった。

 だが、テーマは本編とかなり違った。一部で期待された(?)“焼けぼっくいに火”的な展開もない。男と女だけでなく人と人の関わりを考えさせられる物語だった。

 連載完結を目前に控えた昨年末、原作者の柴門ふみ氏を取材する機会があった。続編に込めた思いを「恋愛は必ず、別れか結婚のどちらかで終わる。それでも人生は続き、人は恋愛が終わった時間を生きていく。そして、人はいろんな愛に支えられて生きていくということがテーマです」と話してくれた。

 50歳になったカンチらは、かつての恋人を前に、心のざわめきを抑えられなかった。だが若き日の恋を、思い出に昇華していた。今の自分を支える愛情を大切にしていた。それでいてリカとの恋も、どこかでカンチを支えてきたと感じさせた。リカも、カンチに支えられてきた部分があるようで、じんわりと心の温まる物語だった。同じ時間を生きてきた人たちがいるからこそ、人は生きていけると思えた。

 展開はドラマチックな“柴門ワールド”だが、テーマや登場人物の心情は、特別なものではない。恋をした経験があり、それなりに年齢を重ねた人なら、誰もが胸に抱える思いだと感じた。

 取材では、柴門氏が次回作の構想を話してくれた。現在、女性セブンで連載中の「恋する母たち」だ。テーマは不倫と聞き、何故か嬉しくなった。

 もちろん不倫は、厳しく断罪されるべき過ちだ。特に昨年以降の世論は、批判の論調がより厳しさを増した。だが“恋愛漫画の巨匠”と呼ばれ、数々の名作を描いてきた柴門氏が、そこにペンを入れたいという創作意欲がファンとして嬉しかったのだ。

 柴門氏は6〜7年前に乳がんが発覚。幸い完治したが、ここ数年はやや執筆ペースを抑えていた感がある。先月19日には還暦を迎えた。そこに来て「25years」で“恋愛の美しい終わり”を描いたことに、記者は勝手な不安を抱いていた。

 だが「25years」とは全く違う、ドロドロと生々しい愛の形を描くことに意欲的で「10年温めたテーマ。真正面から取り組む」という気持ちの入りようだった。「25years」も「描きたいことは描き切った」と充実感を漂わす一方で、破綻した三上と尚子の物語など「省いた」部分はあるようで「読み切りで描きたい気持ちがないではない」とも話していた。

 今回、約20年ぶりに「東京ラブストーリー」本編を読んでみた。“トレンディードラマ”の印象が強かったためか“東京が舞台のオシャレな物語”と思い込んでいたが、意外と泥臭かった。田舎の高校生だった記者は当時気にしていなかったが、カンチとさとみ、三上は地方出身者で、帰国子女のリカも含め、東京になじもうと苦労していた。名作とされる漫画は重層的にできており、読む側が成長すると別の視点があると気づかされる。

 「25years」も50歳になった頃、もう一度読んでみたい。今の自分が気づいていない視点があるかもしれないと期待している。(記者コラム)

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