國村隼 瞳に宿す優作さんの教え 「ブラック・レイン」子分役抜てきが転機

[ 2017年1月15日 10:30 ]

真冬の斜陽を浴び柔和な表情を見せる國村隼
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 【俺の顔】俳優の國村隼(61)が昨年、映画デビューから35年で初めて賞を手にした。韓国映画に初挑戦した「哭声/コクソン」(3月11日公開)で、韓国最大級の映画賞「第37回青龍映画賞」の男優助演賞などを受賞。初の外国人受賞という快挙でもあった。若い頃からボーダーレスに活動してきたベテランで、国内外の作品に引っ張りだこ。クラシックカーやフライフィッシングで遊ぶ粋な素顔も魅力的だ。

 角張った大きな顔は一見こわもてに見えるが、驚くほど瞳の純度が高くキラキラしている。顔で気に入っているところを尋ねると「なんやろね。目ェいうことにしときますかね」と穏やかな関西弁が返ってきた。「芝居で一番大事。目がいろんなものを表現するから、目に力を持ちたいと思ってるんです」。人柄同様のぬくもりある声が深く響く。

 「哭声/コクソン」では不気味さを瞳に宿し謎の男を演じている。「チェイサー」「哀しき獣」のナ・ホンジン監督の新作で、のどかな村で奇怪な殺人事件が続発するサスペンススリラー。疑惑の中心となるえたいの知れないよそ者役は、100を優に超える映画出演の中でも初めての怪役だ。

 「台本を読んで“なんだこの世界観は?”と思った。ただ“この男は自分でないといけない。他の人がやっているのを見たくない”と思ったのは初めて。既存のジャンルにカテゴライズできない作品に関わることはテンションが上がるし、人にやられるのは悔しい」

 ふんどし一丁で山の中を駆け回り、滝に打たれ、生肉に食らいつくなど衝撃的なシーンの連続で、撮影は過酷。山の上り下りで股関節を痛め、極寒の中、冷たい水が流れる車道に何時間も寝かされた。「ナ監督は容赦がない。日本の現場で言ったことのないことを言いましたよ。“頼むからあと1テークで終わり!”って」と笑って明かす。

 その存在感は韓国の映画ファンも魅了し、青龍映画賞で男優助演賞と人気スター賞をダブル受賞。興行的にも大ヒットし、國村の劇中のセリフが流行。バラエティー番組にも出演するなど大ブレークした。「ソウルでホテルからモールに行こうとしたら人が集まって10メートルも進めなかった。日本では絶対にないことで、びっくりしました」

 勢いのある韓国映画界で監督や俳優に指摘されハッとしたことがあった。「“僕たちは日本の映画を見て学び、一生懸命追いかけてきた。最近の日本映画はどうしちゃったの?”と言われ、耳が痛かった。日本映画が元気になるために、僕はなんぼでもやるつもり。いろんなところで映画を作って、その違いや良いものをフィードバックしたいなと思います」

 車が好きでエンジニアに憧れ、工業高専に進んだが中退。友人に勧められ劇団の研究所に入り、81年に井筒和幸監督「ガキ帝国」で映画デビュー。牛丼チェーン「吉野家」の深夜バイトをしながらの俳優生活だった30代前半、リドリー・スコット監督が大阪で映画を撮るという新聞記事を見てオーディションを受け、転機を迎えた。

 89年の「ブラック・レイン」で、故松田優作さんが演じたやくざの子分役に抜てきされた。「俳優をやっていていいのかと悩み、ターニングポイントに来ていた。あの時リドリー・スコットが僕を選んでくれへんかったら、“もうええか”と思っていたかもしれない」

 優作さんから受けた影響も大きい。米ロサンゼルスで撮影中、たびたび食事や酒に誘われ、「“常に役者というのは見られていることを意識しろよ”と教えてくれた。優作さんが本当に命を懸けた映画というものを、自分も本気でやってみたいと思うようになった」と軸足を映画に定めた。

 同作をきっかけに香港映画界から声が掛かり、ジョン・ウー監督らの作品に出演。日本でも昨年の「シン・ゴジラ」など話題作への出演が引きも切らない。「物作りが好き。本当は車を造りたかったけど、映画やドラマをいろんな人と一緒に作るのは楽しい作業です」

 愛車は69年のポルシェ911Sで「とんでもなくトリッキーなエンジンで、買って5、6年たつんやけど全然乗りこなせない。こいつを本当に乗りこなせたら」と心底楽しそう。釣りは約30年前に開高健さんのエッセー「私の釣魚大全」を読んでルアーフィッシングを始め、フライフィッシングに出合って「奥行きと面白さにはまった」という。「川虫をイミテートした毛針を作るのも一つの楽しみだし、虫の生態を知るのも必要。キャスティング技術を楽しむこともできる。渓流に行って魚を相手に遊ぶ。楽しみのファクターが詰まってるんです」。趣味の話になると、ひときわ目が輝いた。

 ≪サントリーオールドCM「まさか自分が」≫お酒も好きで「量はそんなに飲めないけど、今は芋焼酎のソーダ割をよく飲みますね」と笑顔。07年から出演したウイスキー「サントリーオールド」のCMも注目された。「子供の頃からあのCMの曲が耳に染みついていた。まさか自分がその曲に乗って、オールドを宣伝するとは思いもよらなかった」と振り返った。

 ◆國村 隼(くにむら・じゅん)1955年(昭30)11月16日、熊本県生まれ、大阪府育ちの61歳。81年「ガキ帝国」で映画デビューし、97年「萌の朱雀」で映画初主演。主な出演作は映画「キル・ビルVol.1」「地獄でなぜ悪い」、NHK連続テレビ小説「芋たこなんきん」など。NHKBS時代劇「雲霧仁左衛門3」(金曜後8・00)に出演中。今年は映画「忍びの国」「ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章」などの公開が控える。4月から舞台「ハムレット」にも出演。

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