今年の漢字は「虐」 いじめの根はどこにあるのか?

[ 2016年12月30日 09:30 ]

大阪人権博物館
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 【笠原然朗の舌先三寸】公益財団法人日本漢字能力検定協会によって発表された今年の漢字は「金」。リオ五輪の「金」か、東京五輪の巨額経費、築地市場の豊洲移転問題など「キン」、「カネ」にまつわる話が盛りだくさんの1年。

 そんな中、社会のよどみを反映する今年の漢字を一字あげるとすれば「虐」だろう。

 「虐」つまり「いじめ」「虐待」「ハラスメント」。これらに関連した事件を挙げていけば「金」どころの話ではないだろう。

 いじめの問題。最近では原発事故のため福島県から避難している生徒に対するいじめが各地で行われている。いったい日本はどうしてしまったのか?

 9月、遅い夏休みをとって大阪へ行った。落語と吉本新喜劇をみるのが目的だったが、どうしても行ってみたい場所があった。大阪市浪速区にある「大阪人権博物館」だ。

 差別や人権問題をテーマに展示を行っている日本でも唯一の博物館。そのテーマは多岐にわたる。列挙するなら「在日コリアン」「LGBT」「アイヌなど先住民」「沖縄」「水俣病」「ハンセン病」「被差別部落問題」…日本国憲法において「基本的な人権」が尊重されているはずのこの国で差別の根がいかに多く、深いことか。

 基本的人権とは「人間が、人間らしく生活するために、生まれた時から持っている権利」だ。出自、状態、病気、貧富など内的、外的あらゆる要因によって、それは阻害されてはならないということだ。

 数々の展示をめぐる中で、足をとめたコーナーがあった。壁に掲示されている子どもたちの個人写真とコメント。

 写真は、いじめで自殺した生徒たちだった。

 10年6月7日、いじめを苦に自殺した当時中学校3年生の篠原真矢=まさや=さんの遺書が展示されていた。一部を引用させてもらう。

 「俺は困っている人を助ける。人の役に立ち優しくする。それだけを目標に生きてきました。今まで本当にありがとう。そしてさようなら」

 辞世の和歌であろうか…「君がため 尽くす心は水の泡 消えゆく後は 澄み渡る空」がそえられていた。

 なんと繊細で柔らかな感性だろう。君には生きていてほしかった。読んでいて涙が止まらなくなった。

 文部科学省は10月に、15年度の小・中学校の「問題行動調査」でいじめの認知件数が前年度より3万6468件増加して22万4540件に上ったと発表した。20万件を超えるのは2年連続。1985年の調査開始以来、過去最高になった。

 いじめは、その人間の「レゾンデートル」(存在価値、存在理由)をもゆるがす犯罪的な行為である。直接的な暴力に訴えることもあるが、態度や言葉でも被害者を追い詰める。表だって“傷”が見えない分、陰湿だ。

 昨年のクリスマスに過労自殺した電通の女性社員の件も、言葉によるハラスメントをともなっていたという。いじめと同根なのではないか。

 大人の言動は、子どもたちに伝播、影響を及ぼす。

 社会的弱者は生きにくい世の中だ。「見えないもの」を見ようとせず、「見たくない」モノに目をつぶり、大人たちが経済優先、目先の「金」に狂奔している裏で、人心の崩壊が加速度的に進んでいるのではないか?

 これが「いじめ」問題の根っこだと思っている。フランスの作家、サンテグジュペリの秀作「星の王子様」の一節。「本当に大切なものは目に見えない」

 こんな時代だからこそ足元を照らしてくれる言葉だろう。(専門委員)

 ◎サマルカンド風プロフもどき

 まずは「違い」を受け入れることが差別の解消につながると思う。文化の違いを超えて、料理は人と人をつなぐ。「プロフ」はウズベキスタン料理でいうピラフのこと。サマルカンドは同国の古都。プロフは男の料理で、さまざまな種類があるらしいが、主に羊肉を使い、大量に作ってワイワイと食べる…と料理番組でみたことがある。ここでは炊飯器を用い、肉は鶏を使った。脂っこく作るのがミソだそうだ。

 (1)ニンジンは千切り、鶏肉は食べやすい大きさに切る。

 (2)少し多めの油で(1)を炒める。肉に火が通ったらOK。

 (3)炊飯器にといだ米に定量より少なめの水、ニンニク2、3カケ、クミンシード、塩、顆粒の鶏スープのもとに(2)を加え、普通に炊く。

 ※パーティーで大皿で提供し、取り分けて食べてもらうと喜ばれる。

 ◆笠原 然朗(かさはら・ぜんろう)1963年、東京都生まれ。身長1メートル78、体重92キロ。趣味は食べ歩きと料理。

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