舞台「磁場」田口トモロヲ、謙虚な演技論“共同作業”に目覚めた契機

[ 2016年12月8日 08:01 ]

田口トモロヲインタビュー(下)

田口トモロヲが竹中直人と24年ぶりに舞台共演する「磁場」(撮影:三浦憲治)
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 個性派俳優の田口トモロヲ(59)が舞台「直人と倉持の会vol.2 磁場」(11日~25日、東京・本多劇場)に出演。怪優・竹中直人(60)と24年ぶりに舞台共演する。「台本に書かれたこと、演出家に言われたことを粛々とやっていきたい」。謙虚な言葉が相次いだ名脇役の演技論とは――。

◆竹中直人と24年ぶり舞台共演「刺激的」倉持裕作品に初参加

 竹中とは「竹中直人の会 第三回公演 市ヶ尾の坂」(1992年)以来の舞台共演。田口は「竹中直人さんという1つの島ですからね。個性的な。その島の中に今回は呼んでいただいて。演劇ってキャッチボールなので、オンリーワンの存在の竹中さんと同じ空間でキャッチボールできるということは俳優にとって刺激的な瞬間です」と喜んだ。

 「磁場」は竹中と劇作家・演出家の倉持裕氏(44)がタッグを組むプロデュース公演の第2弾。倉持氏は2000年に劇団「ペンギンプルペイルパイルズ」を旗揚げ。04年に不条理劇「ワンマン・ ショー」で演劇界の芥川賞と呼ばれる第48回岸田國士戯曲賞に輝いた。

 NHK連続テレビ小説「あさが来た」などで知られる俳優の三宅弘城(48)が主演を務める「鎌塚氏、放り投げる」「鎌塚氏、すくい上げる」「鎌塚氏、振り下ろす」の「鎌塚氏シリーズ」や、NHKのコント番組「LIFE!~人生に捧げるコント~」(木曜後10・25)など、コメディーに定評。今年3~5月に上演された劇団☆新感線「いのうえ歌舞伎≪黒≫BLACK 乱鶯」は骨太な人間ドラマを描き、好評を博した。テレビ朝日「信長のシェフ」や日本テレビ「弱くても勝てます~青志先生とへっぽこ高校球児の野望~」など、幅広く活躍している。

 倉持氏の新作「磁場」は、ホテルの一室を舞台に、過剰な期待が生み出す恐怖をテーマに描く心理サスペンス。売り出し中の若手脚本家・柳井(渡部豪太)が映画のシナリオ執筆のため、缶詰にされている。映画の出資者で資産家の加賀屋(竹中)は、柳井に絶大な信頼を置くが…。女優・椿(大空祐飛)プロデューサー・飯室(長谷川朝晴)柳井のアシスタント・姫野(黒田大輔)ホテルの客室係・時田(玉置孝匡)加賀屋の秘書・赤沢(菅原永二)と周囲の人間の思惑も絡み合う中、柳井は次第に加賀屋からのプレッシャーに押しつぶされて―――。

◆役作りは多くを語らず「脚本をどう読み取るかもプロの仕事」

 田口が演じるのは、映画監督・黒須。熱しやすい性格で、脚本に口を出すスポンサー・加賀屋と対立を深める。

 倉持作品は初参加。「業界の内幕ものとしても非常におもしろいし、やっぱり会話の妙ですね」とコメディーの名手の手腕を評価。「クスッと笑いを取るシーンは難しいです。ギャグとも受け取れるし、登場人物の真剣さを客観的に見たら笑えるとも受け取れる。僕とかは、例えば笑いという芝居の“出口”を計算すると、どうしても意識しちゃうので、ナチュナルに演じられない部分があります。だから、あまり出口のことは考えず、台本に書かれたこと、倉持さんに言われたことを粛々とやっていきたいと思っています」

 どの作品も比較的そうか?と聞くと「そうですね。できることと、できないことがあるので、そこから演出家さんや監督さんが拾っていただければ」。役作りについても「工夫?いやぁ~、特にないです。脚本を読んで、どう読み取るかというのもプロの仕事なので」とクールに語った。

◆岩松了氏“1000本ノック”に影響「共同作業に真摯に」

 もちろん、演技へのアイデアは持っている。「『好きにやってください』と言われれば、やりますが、キャラクターは演出家や監督の中に、もっと深くあると思うので。あまり出しゃばらない?そうですね」が百戦錬磨のベテランがたどり着いた境地。若い頃は「その作品よりも、自分を表現したいという初期衝動はありましたよね」。それが「まぁ自分で言うのもアレですが、演技が共同作業であるということに関して、自然と真摯になったということなんだと思います」と自己分析した。

 演技への考え方が変わったきっかけの1つは、まさに竹中と24年前に共演した「市ヶ尾の坂」の作・演出だった劇作家・演出家の岩松了氏(64)。テレビ朝日「時効警察」の課長役など名脇役としても知られる岩松氏だが、独特の世界観で演劇ファンを魅了している。

 「市ヶ尾の坂」1幕の最初のシーン。岩松氏はどこがダメとは言わず「もう1回」「もう1回」と何度も繰り返したという。「もう1000本ノック。それまで僕はかなり自由にセリフとかも自分なりに変えたりしていたんですが、いわゆる“岩松1000本ノック”で『こういう世界、こういう演劇もあるんだ』と洗礼を受けました。いろいろな演出家の方がいらっしゃると思うんですが、岩松さんはあれこれ言わない方」。役者の“状態”が出来上がるまで繰り返しやる――。俳優・田口トモロヲの大事な一部分が形作られた。

 倉持氏も「非常に物静かに演出されて、そして、あまり多くのことは語らず、何度も同じところを繰り返していくという方法論。それは心地よいです」と似た一面があるようで「役者と信頼してくださっているので、安心して船に乗っていこうという感じです」と倉持演出に身を委ねる。

◆目の前の仕事を粛々と「命拾いの繰り返しなんじゃないかな」

 最後に今後の展望を尋ねると「まずは目の前の『磁場』を何とかおもしろい形で、共同作業としてお客さんに提出したいと思います」とし「この仕事って、1つ1つなので。出会った作品を懸命にやって、次につながることもあるし、つながらないこともあるし、本当に1つ1つという感じですね。先のこと?もう年寄りですからね、死んじゃいますからね。あまり先のことを見ていても、死んじゃうから」と笑いを誘いながら「そんなに期待しないで、目の前の頂いた仕事を粛々とやって『あー、また命拾いしたな』みたいな。『あー、まだ命あった。もうちょっとできるか』みたいなことの繰り返しなんじゃないかな。できるだけ、できることを全うしたいですよね」

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