「日本一不幸な役が似合う女優」木村多江の幸福論 人生は小さなことの積み重ね

[ 2016年11月27日 10:20 ]

穏やかな口調で「幸せ」や「人生」について語った木村多江
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 女優の木村多江(45)が、映画、テレビ、CMに大活躍だ。この人の笑顔には、不思議な癒やしの力がある。悲しい役柄が続いたことで「幸薄い女」のイメージが先行した時期もあったが、「最近はそういう役もあまりないですね」。では、この人にとっての幸せとは!?

 はかなげな和風の美人だからか、それとも偶然に悲劇のヒロインが続いたからなのか。誰が言ったか、「日本一不幸な役が似合う女優」。一体、本人はどう考えているのだろうか。

 「自分ではあまり意識してなかったです。でも、“その役なら木村多江”とキャッチコピーみたいに思ってもらえるのならば悪い気はしませんね。今はどんな役をやっても“木村多江で良かった”と言われる役者にならないといけないと思ってます」

 女優として芽が出たのは20代後半、決して早いとは言えない。それだけに、巡り合った役にはいつも全力投球。ドラマ「救命病棟24時」「白い巨塔」などで演じた悲しげな女性像が、その風貌も相まって視聴者に強い印象を与えたのだろう。でも、実際の彼女は、ほんわかとした天然癒やし系。話題豊富で明るくて実に楽しい人だ。

 「普段は、ちょっと抜けてるところがありますね。失敗は多すぎて覚えてられません。この前も高速道路のサービスエリアでネックピローをつけたまま車から降りて歩いてました。周りの人の視線でようやく気づきましたね。そんなことばっかりですよ」

 最近は役柄も変化してきた。自身もプライベートでは、8歳の女の子を持つママ。仕事でも母親役やコミカルな役どころが増えている。高視聴率で話題となったNHK連続テレビ小説「とと姉ちゃん」では、家族を見守るおっとりとした優しいお母さん。徹夜もあった9カ月に及ぶ厳しい撮影現場でも、小橋家の中心として周囲を気遣った。

 「最初、どうしたら本当の家族のようになれるのかと考えて、私が下手な物まねをしたり、周りにむちゃぶりしたりしてました。“ふられたことは絶対にやる”というルールを決めて、みんなでゲラゲラ笑い転げてましたね。楽しかったです」

 公開中の映画「幸福のアリバイ」(監督陣内孝則)では、中井貴一との夫婦役。不良の一人息子の成人式の当日をちょっぴりユーモラスに描いた作品。どこかほのぼのとした心温まるストーリーだ。では、この人にとって幸せとは?

 「私には元々大それた望みもないですし、大きな幸せなんて簡単に転がっているはずもありません。見つけようとしても難しい。人生はつらいことも多いし何かの修行なのかなと思うことさえあります。小さな幸せや楽しみを積み重ねていくしかないような気がします。でも、それが大切なことなんじゃないですか」

 仕事場を和ませ笑顔にすることもきっとそのひとつ。不透明な世の中だから「幸せ」の意味が繰り返し問われる時代。何げない平穏な日々にこそ、その答えがあるのかもしれない。

 幅広く活躍する彼女だが、元々女優を目指していたわけではない。演劇を始めたのは、中学時代。理由がある。他人とコミュニケーションを取ることが不得手だったため、自己表現の手段として芝居の世界に飛び込んだのだ。

 「それまではバレエを習ってました。あの頃は人に何かを伝えることが本当に難しくて、自分の中にたまったものが吐き出せない感じでした。そうなるともう呼吸までしづらくなってくる。それを唯一解消することができるのが舞台だったんです」

 ステージで自分と異なる人物を演じることによって抑圧された心を解放した。いつの間にか舞台上がどこよりも楽しい居場所になっていた。いつしか演劇が生活の一部になり、高校を卒業すると専門学校へ進んだ。ところが、思いもかけない悲しいことが起きた。中学、高校と都内でも有名な進学校。友人たちのほとんどが当然のように大学に進学した。期せずして1人だけ、そのレールから外れた。

 「私のことを“別の世界の人”“私たちとは違う”みたいな感じで見る人もいましたしね。何か一線を引かれてしまったような気がしました。テレビに出るようになると逆に“凄いね”とか言われるようになりましたけど。それがつらかったですね」

 女優という仕事を意識したのは、初めて履歴書を書いた時。職業欄に書くのは「無職」か、「舞台役者」なのか。迷わず後者を選んだ。この瞬間、自らの進むべき道が決まった。一本立ちするまでの間、レストラン、ホテルのスタッフなど長くアルバイト生活が続いたが、「舞台に立てると思えば、特に苦労は感じなかった」という。

 今は人間の脳について書かれた本を読みあさっている。「仕事柄どうしても理解できない人間を演じることもあるので、脳の仕組みと心の動きの関係を知ることも必要なのかなと思いました。よく人間観察はしてますね」。今後どのような女優になるのだろうか。「木村多江」からますます目が離せなくなってきた。

 ◆木村 多江(きむら・たえ)1971年(昭46)3月16日生まれ、東京都出身。フジテレビのドラマ「リング~最終章」「らせん」の山村貞子役などで注目を集め、初主演した映画「ぐるりのこと。」(2008年)で日本アカデミー賞最優秀主演女優賞などを獲得。05年に会社員の男性と結婚。特技は日本舞踊。

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