漫画界でも人気の“80年代” 懐かしくも新しいラブコメに胸キュン

[ 2016年11月14日 11:20 ]

「スローモーションをもう一度」(c)加納梨衣/小学館

 ファミコンの復刻版が話題だが、漫画界でも1980年代をテーマにした作品が人気を呼んでいる。漫画誌ビッグコミックスピリッツ(小学館)に連載中で、このほど第1巻が発売された「スローモーションをもう一度」(加納梨衣さん作)だ。

 現代の高校生男女が、ともに80年代アイドルのファンであることをきっかけに引かれ合っていく物語。中森明菜や斉藤由貴ら80年代アイドルの歌やドラマが随所に登場するため、それだけでもアラフォー読者には悶(もん)絶モノだ。

 だが、この漫画の一番の魅力はそこではない。恋模様が、とにかく甘酸っぱいのだ。明らかに思い合っているのに、相手の反応に過敏で、自分の思いを表すのに不器用な2人。異性に引かれる自分に戸惑い、気恥ずかしくもウキウキする初恋の空気が、みずみずしく描かれている。80年代っぽいウブな2人に、読んでるこちらも胸キュンだ。

 80年代アイドルを題材とした理由を同誌に聞いた。恐らく80年代に中高生だったアラフォー読者狙いかと思いきや、全く違った。

 仕掛け人は1985年生まれで「80年代はリアルタイムでの記憶はありません」という担当編集者の今野真吾氏。DVDやネット動画で見て、南野陽子のファンになったそうだ。80年代アイドルの魅力は「“ワーキャー感”がすごくあること」だという。“ワーキャー感”とは「感情を表に出す度合い」だそうだ。

 企画段階で意図していなかったというが「2大テーマとした“初恋”と“80年代”の相性が良かったのかも。初恋は誰しもワーキャーしますからね」と分析している。

 80年代は「タッチ」や「めぞん一刻」「きまぐれオレンジロード」など、明るく軽快なラブコメ漫画が数多く登場。30年が過ぎ、時代の空気は大きく変わったが「スローモーション」には、当時のラブコメ漫画の空気を感じる。

 もちろん当時のラブコメの焼き直しではない。今ドキの高校生らしくない?もどかしくじれったい距離感を、今ドキの学校らしい“スクールカースト”を上手く使って演出している。

 主人公の男子生徒はスポーツ万能で、クラスの中心グループの一員。一方、女子生徒は地味で大人しく友達もいない。「暗い」と陰口を叩かれおり、2人が学校で話すことはゼロに近い。回りの目が気になり、思うように距離を縮められない。

 今野氏は80年代について「僕らに比べ、若者が好きなものを素直に好きと言えているようでうらやましい」とも感じている。中学生になると、当たり前のようにパソコンがあった世代。「興味があることは、ネットで情報収集するのが普通でしたが、いつの間にか、それに対する世間の意見はどうなのか探っていた気がします」。

 劇中には、主流から外れること、人と違うことを恐れる現代の高校生気質も描かれている。2人は大好きな80年代の話も「ダサい」と思われるのが怖くて、学校ではしない。2人の恋心もそうだが、抑えた分だけ思いは増幅され、読む側の心を揺さぶる。

 現代によみがえった、懐かしくも新しい80年代のラブコメ。スローモーションな恋のじれったさは、あらゆる世代に響くと思う。

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2016年11月14日のニュース