ジョンとポールがハモった奇跡

[ 2016年10月14日 11:15 ]

1966年6月29日、ビートルズ来日。タラップから手を振る
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 【牧元一の孤人焦点】それはやはり奇跡としか思いようがなかった。ジョン・レノンとポール・マッカートニーが1本のマイクで仲良く歌っている。「ベイビーズ・イン・ブラック」。1964年に発売されたビートルズの4枚目のアルバム「ビートルズ・フォー・セール」からの1曲。2人が強烈なボーカルをぶつかり合わせるようにしながら、しっかり寄り添い合って絶妙なハーモニーを聴かせる。

 公開中の映画「ザ・ビートルズ~EIGHT DAYS A WEEK」を見た。ビートルズのライブ活動を追ったドキュメンタリー作品だ。日曜の午後、客席は私と同世代や、少し上の世代の男女でほぼ満員だった。若い観客が中心のアニメーション映画「君の名は。」の上映館とはまた少し違う熱気がそこにあった。今でもビートルズが広く深く愛されていることを思い知らされる。

 あらためてビートルズ史を勉強できる本編が終了すると、特典として、65年8月に米・ニューヨークのシェイ・スタジアムで行われたライブの映像が上映される。50年以上前に撮影された古いフィルムは、スーパーハイビジョン「4K」リマスター処理が施され、驚くほど鮮明な映像に変容していた。ファンとしては、これだけでも劇場に足を運ぶ価値がある。

 5万人もの観客の絶叫や号泣がすさまじいライブが進んでいき、7曲目に「ベイビーズ・イン・ブラック」となる。ライブでは基本的にジョンが向かって右、ポールが向かって左の位置で歌うが、この曲では2人が1本のマイクに集まり、顔を寄せ合って歌う。その姿を目にした感動をどう表現したら良いだろうか…。ビートルズの熱烈なファンはほぼ全員、分かってくれるだろうが、そうじゃない人には理解してもらえないだろう。

 例えば今、米大統領選を激しく争うクリントン氏とトランプ氏が1本のマイクで仲良く歌う姿がテレビで流れたら視聴者はさぞ驚くに違いない(これは誰も見たくも聞きたくないだろうが…)。ジャンルの違いや事の善しあしは別にして、ビートルズを愛する者にとってそれくらいインパクトの強い場面なのである。

 あのジョンと、あのポールが、1本のマイクでハモっている。2人が英国・リバプールで出会わなければ、ビートルズは存在しなかった。ビートルズが存在しなければ、生まれなかった名曲がたくさんある。ビートルズの名曲の数々がなければ、日本の音楽史も少なからず変わっていただろう。そして、私の生活は間違いなく変質していた。もしかしたら、今こうしてコラムを書くような仕事もして来なかったかもしれない。

 映画「EIGHT DAYS A WEEK」が奇跡を思い出させてくれた。(専門委員)

 ◆牧 元一(まき・もとかず)編集局文化社会部。放送担当、AKB担当。プロレスと格闘技のファンで、アントニオ猪木信者。ビートルズで音楽に目覚め、オフコースでアコースティックギターにはまった。太宰治、村上春樹からの影響が強い。

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2016年10月14日のニュース