ピース綾部、ニューヨーク挑戦に思う 今井雅之さんが明かした“スタートライン”とは

[ 2016年10月11日 13:05 ]

会見した「ピース」綾部祐二
Photo By スポニチ

 お笑いコンビ「ピース」の綾部祐二(38)が来年春から活動の拠点を米国に移すという。記者会見でニューヨークに行くと明かし、「ハリウッドでレッドカーペットを歩きたい」「とにかくスターになって帰ってきたい」と話した。テレビ番組にもコンスタントに出演し、コンビの知名度も高い。相当な収入を捨てて、ほぼ無収入の状態での挑戦になるだろう。なかなかできる決断ではない。

 「ニューヨークでの挑戦」と聞いて思い出す人がいる。昨年5月、大腸がんのため54歳で亡くなった俳優の今井雅之さんだ。

 1999年9月、今井さんは原作、演出、主演を務めた舞台「THE WINDS OF GOD(ザ・ウインズ・オブ・ゴッド)」を、日本人による演劇作品として史上初めて、ブロードウェーで上演した。「キャッツ」や「オペラ座の怪人」などの有名ミュージカルが上演されている演劇街の一角、「オン・ブロードウェー」といわれる場所の劇場でだった。

 大きな後ろ盾もなく、単身ニューヨークに乗り込む今井さんの“快挙”を見届けようと記者も渡米し、初日公演を鑑賞した。全編英語。売れない漫才コンビが、太平洋戦争末期の沖縄にタイムスリップするという話だけに、途中、漫才のシーンもあった。ボケと突っ込みも、もちろん英語だった。

 日本人が舞台上で話す英語が全部、米国人に理解できたかは分からないが、ラストシーンでは涙を流す観客もいた。今井さんはカーテンコールでも英語であいさつ。スタンディングオベーションで、大きな拍手を受けた。

 終演後、劇場ロビーでパーティーが開かれた。飲み物の軽食のシンプルなものだったが、批評家や演劇ライターがキャストやスタッフに感想を伝えていた。全力での舞台を終え、今井さんは少し疲れている様子だったが、ロビーを動き回り、現地の人と会話を交わしていた。

 パーティーが終わって。近くのレストランで“お疲れさま会”を兼ねた食事。記者も同席させてもらった。これぞアメリカ!という巨大ステーキを注文。今井さんは疲れ果てていたのか、ステーキは食べず、ただただビールをおいしそうに飲んでいた。

 「今井さん、英語には不自由しないんですね」

 「それは、スタートラインですから」

 舞台の感想を話していた途中、こんな会話を交わしたのを覚えている。日本人が英語を自由に使えても、演劇評論家は「すごいですね!」などと褒めてくれない。作品の出来栄えが、俳優の演技がどうであったかが問題で、「キャッツ」や「オペラ座の怪人」を見たときと同じスタンダードで評価されるのだ。

 綾部の渡米は来年4月以降だという。会見では「英語はダメです」と話していた。“スタートライン”に立つまで、まだ半年ある。(記者コラム)

続きを表示

2016年10月11日のニュース