「釣りキチ三平」矢口高雄氏が語る こち亀の「奇跡」4つの理由

[ 2016年9月17日 07:22 ]

「釣りキチ三平」の矢口高雄氏

 「こちら葛飾区亀有公園前派出所」連載終了

 こち亀以前の漫画単行本で最多巻数記録とみられるのは「釣りキチ三平」の67巻。作者矢口高雄氏(76)は、こち亀を「奇跡の漫画。2度とこんな漫画は出ない」と指摘した。

 奇跡の理由は4つ。まず「デビュー作」であること。作家が勢いある若手時代から、脂の乗った中堅期、深みの出る円熟期を1つの作品に打ち込んだ例は珍しい。

 一般的にデビュー作は、初々しい魅力がある一方で、作家の技量が追いつかず短命に終わることが多い。矢口氏は「カベもあっただろうが、うまく乗り切れた。読者とともに、作品が成長していったからこその200巻」とした。

 第2に「1話完結」。70年代以前の人気漫画は毎週ヤマ場があり、読者に次週を期待させるのが黄金パターンだった。だが矢口氏によると「ヤマ場ばかりの物語は長続きしないし、破綻しやすい」。

 一方で、1話完結はアイデアを出し続ける苦労がある。だが「こち亀は単なるギャグ漫画ではないから、そこを乗り越えた。人情物語やストーリー漫画の要素をうまく絡めている」。

 実はこの手法は「今では逆にストーリー漫画の側も取り入れている」。90年代以降に、長寿漫画が増えた大きな理由の1つにもなっているという。

 ここに「単行本ブーム」が第3の理由として絡んでくる。75年ごろ、漫画の作り方が、利益の出る単行本中心に変わった。「漫画家は、週刊連載の10話をまとめた1巻分を意識した話作りが求められるようになった」という。どの巻からも読めるこち亀は「単行本ブームに最もハマった作品かもしれない」と矢口氏は言う。

 第4に「常に2、3番手」。ジャンプは常に圧倒的な一番がいた。「連載当初は“男一匹ガキ大将”があり、その後も“ドラゴンボール”や“ワンピース”があった。派手な牽引役は他に任せ、こち亀は安定した漫画作りができた」という。

 矢口氏は、秋本氏と04年、雑誌の企画で対談。「彼は“三平の67巻は考えられない数だと思っていた”と話していたけどね」と懐かしそうに話した。

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2016年9月17日のニュース