思索にふける秋

[ 2016年9月8日 09:41 ]

4個目の金メダルにを手に笑顔の伊調

 【我満晴朗のこう見えても新人類】女子レスリング・伊調馨への国民栄誉賞授与を検討するよう、安倍晋三首相が指示したという。

 指示されても困るよ。女子個人種目で五輪史上初の4連覇を達成したわけで、全く非の打ちどころがない。誰がどう検討しても間違いなく受賞に値するのだから検討のしようがない。そもそも反対意見ってあるのか。

 気になったので内閣府のウェブサイトを開き、過去の受賞者一覧(個人22、団体1)を眺めてみた。五輪選手では第5号の山下泰裕(以下、失礼を承知で敬称略)、第15号の高橋尚子、そして第20号の吉田沙保里と3人いる。もちろん、全員がオリンピック・チャンピオン。

 ん?なんか引っかかるな…。

 なんだろう?

 そうだ、冬季競技の受賞者がいない!

 なんでだろう?

 同賞の規定を確認してみると「この表彰は、広く国民に敬愛され、社会に明るい希望を与えることに顕著な業績があったものについて、その栄誉を讃えることを目的とする」とある。冬季競技で、この規定に該当する選手……結構いるぞ。

 前述の3人同様、金メダリストに限定すると、日本人初の冬季五輪優勝者・笠谷幸生(1972年札幌大会ジャンプ)の名がまず挙がる。国民栄誉賞表彰規定が実施された77年以降ということなら、冬季大会日本人初の連覇を達成したノルディックスキー複合団体(92年アルベールビル大会の荻原健司、河野孝典、三ケ田礼一→94年リレハンメル大会の阿部雅司、荻原、河野)あたりが有力候補。

 いやいや。98年長野大会のジャンプで2個の金メダルをもぎ取った船木和喜はどうだ。冬季五輪同一大会で2度も表彰台の頂上に立った選手なんて、日本人ではいまだに彼しかいないのだから。

 それを言うなら同大会で奇跡の大逆転劇を演じたジャンプ団体(岡部孝信、斎藤浩哉、原田雅彦、船木)だって見逃すわけにはいくまい。特に原田の2本目、K点をはるかに超えた特大ジャンプには、日本人なら激しく心を揺さぶられたはずだ。

 よく考えたら長野ではフリースタイルスキーの里谷多英が女子初の冬季大会金メダルに輝いているし、スピードスケートの清水宏保、ショートトラックの西谷岳文もその競技での日本人初優勝だ。

 ちょっと待った!冬季五輪の華・フィギュアスケートで頂点に立った荒川静香(2006年トリノ大会)と羽生結弦(14年ソチ大会)も忘れたら失礼でしょ。

 …結局、日本人の冬季金メダリスト全員の名前を挙げてしまった。この中から誰かを選べと総理に指示されたら、かなり悩む。過去に取材した面々を思い出し、モンモンとした日々を送る秋の夜長。胃に穴が開きそうだ。

 えっ、誰もアンタには頼んでないって?(専門委員)

 ◆我満 晴朗(がまん・はるお)1962年、東京都生まれ。ジョン・ボンジョビと同い年。64年東京五輪は全く記憶にない。スポニチでは運動部などで夏冬の五輪競技を中心に広く浅く取材し、現在は文化社会部でレジャー面などを担当。たまに将棋の王将戦にも出没し「何の専門ですか?」と尋ねられて答えに窮する。愛車はジオス・コンパクトプロとピナレロ・クアトロ。

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