駿河太郎 強みは“異色さ”「結果を残すしかない日々」

[ 2016年7月29日 15:01 ]

映画「夢二 愛のとばしり」の主演、駿河太郎

 日本画家・竹下夢二をめぐる愛憎を描く映画「夢二 愛のとばしり」(30日公開)で、主人公の夢二を演じた俳優の駿河(するが)太郎(38)。バンドマンから俳優に転身、NHKの連続テレビ小説「カーネーション」(11年)、記録的視聴率の「半沢直樹」(13年)と立て続けにヒットドラマに出演、視聴者の印象に残る演技をみせたが「でもまだ2つしかない。僕はワンシーンのみとか、出演作だけは多いんです。その中でたまたまその2つが知名度を上げてくれただけ」。笑福亭鶴瓶の息子という“七光り”に甘んじない独立独歩の姿勢で前へと進んでいる。

 CMなどで、芸能界の大先輩である父との共演もあるが「気を遣う」と苦笑い。「オヤジが周りに気を使っているのがわかるから。自分の子供が友達の家に泊まりに行くと“迷惑をかけていないか”と気になるでしょ?そのめちゃくちゃデカい版。それがあるから、共演時はなるべく自分が前に出ないようにしています」。現在の活躍ぶりは「直接褒められたことはない」というが「“誰々がこう言うてたで”という形で伝わってくる。きっと面と向かって言うのが照れ臭いんだと思います」。自身も2人の子どもの父親。オヤジの気持ちもよく分かる年齢になった。

 03年からミュージシャンとしてバンド活動を開始。“鶴瓶の息子”ということで俳優オファーもあったが、すべて断っていた。転機は自身の音楽活動に限界を感じていた27歳の頃。長らく駿河を口説いていたチーフマネジャーの誘いに応じ、俳優へ舵を切った。「(口説いていたチーフマネジャーは)これまで俳優を育てたことのないお笑い畑の人だった。逆にそこが面白いと思った」。

 俳優に転身したものの、演技経験はゼロ。ゆえに「最初の撮影はひどかった。画(え)の繋がりって何?カメラの切り返しって何?という感じで、撮影のルールさえも知らなかった。でもビビることはまったくなかった。きっとアホなんです」。そんな“若かった”時代を経て、アルバイトをしつつVシネマや深夜ドラマの現場で修業を積んだ。「出演作だけは多い」の裏返しは、それだけ現場を経験し、勉強してきたという自負の現れ。音楽がダメだったから俳優で…というそんな甘えは皆無だった。

 俳優一筋で来なかったことが自分にとっての最大の武器と感じている。「バンドマン時代に自分でツアーを組んだりした経験から、いろいろな人と関わり、裏方の仕事もやってきた。その経験から、俳優として撮影現場にいる時には裏方の人たちがどんなことをしているのか考えて行動するし、その人たちがいるからこそカメラの前に立つことができると知っている。俳優としてずっと同じことをしている方々ももちろん凄いと思うし、尊敬します。でも全員が全員それでは面白くない。その異色さが自分の味」。それぞれの俳優が、それぞれの視点を持ち、それぞれのポリシーで仕事をしている世界。みんなと同じなら生きていけない世界だからこそ、「異色さ」が強みになる。

 主演映画「夢二 愛のとばしり」は「Japan Film Festival LA 2015」で作品賞のほか、最優秀主演男優賞を獲得。授賞式には妻と子供2人も参加した。「発表された時は“嘘!?”って。でも家族に自分の仕事をしている姿を見せられることができてよかった。長男はそのころ小学校1年生で、僕の名前が彫られたトロフィーを持たせて賞の意味を説明したけれど“重い、重い”とだけ言っていました」と愛息子の無邪気さに目を細める。

 人生初めての受賞が最優秀主演男優賞。しかし初の勲章も、あくまで第一歩と捉えている。「俳優の仕事も軌道に乗って、経済的にもそれなりに安定したけれど、それがいつまで続くかはわからない。だからやるしかない、結果を残すしかない日々」。音楽の道をあきらめて、進路を変更した俳優業が天職だったのか。日本の作品のみならず海外の作品のオーディションにも意欲的に参加している。駿河のあくなき挑戦は続く。(石井隼人)

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