「真田丸」高嶋政伸“怪演”の裏に隠された信念 “変化球”氏政に葛藤も

[ 2016年6月18日 08:00 ]

「真田丸」での“怪演”ぶりが光る高嶋政伸(C)NHK

 NHK大河ドラマ「真田丸」(日曜後8・00)で関東の覇者・北条氏政を熱演している俳優の高嶋政伸(49)。今作に限らず、映画やドラマで見せる個性的でキレのある演技は、しばしば“怪演”と評される。その裏側には、真摯に役と向き合い、地道な努力を続ける役者としての信念があった。

 以前は「姉さん、事件です」の名ゼリフで一世を風靡したドラマ「HOTEL」シリーズ(TBS)など、“好青年”を演じることが多かった。だが、近年は「DOCTORS~最強の名医~」(テレビ朝日)で「んんんん!」とうなり声を上げる医師を好演するなど、かつてのイメージは一変。日本を代表する“怪優”としての地位を確立した。

 周囲から“怪演”“怪優”と評価されることに対して「とてもうれしいですね」と喜ぶ。だが、本人が最も大切にしているのは“怪演”以外の部分。「怪演にあたる部分も自分なりに考えてやりますけど、神経質に几帳面にやるシーンを丁寧に演じたいと思いますね。怪演と言っていただけるのはすごくうれしいけど、人の生きざまを見せるという“役者が本来やるべきこと”はちゃんとお見せしないといけないと思っています。怪演というのはそれがあってのプラスアルファなのかなという気がします」と基本を重視する。

 今年50歳を迎えるが、演技力を保つため未だに基礎的な努力を惜しまない。「変な話ですけど『真田丸』の作品だけに取り組んでいると演技のレベルは下がる。それ以外に別の台本や戯曲を読むと、演技のレベルが下がらず良い形で『真田丸』の役を演じられます。太宰治などの作品を1人で声に出して読むとか、若い役者さんと一緒に台本を読み合わせするとか、そういったことをやっていかないと総合的な演技力は下がっていく気がしますね」と持論。

 「基本的な練習は残しておかないと、怪演の下にきちんと組み立ててあるものがなくなってしまう。そうなると怪演は、ただのドタバタになってしまいます。そうはなりたくないんです」。土台となる演技力があってこその“怪演”だと熱弁した。

 飯に汁をかけて食べる“汁かけ飯”のシーンや、戦況を聞く時に見せる不気味な表情が印象的な氏政。高嶋の演技には微塵の迷いもないように見えるが、実は葛藤もあったと明かす。「変化球ではなく、もう少し正統派の演技にした方がいいのかなとは思いました。やはり“大河ドラマ”だよなというのがあって。(1991年に足利直義役で出演した)『太平記』の時はどういう雰囲気だったかなとか、どういう役作りをしていたかなとか。緒形拳さん、フランキー堺さん、根津甚八さん、萩原健一さんらの大スターはどう演技を作ってきたかなと考えて、それと比べて今の役作りは正しいのか常に考えましたね」

 役作りを進める上では、三谷幸喜氏(54)が手掛ける脚本の難しさも痛感。「すごく取り組みやすい台本だなという印象を最初に受けるんですけど、練習を重ねていくと、いろいろなものが多層的に重なっていて、途中で訳が分からなくなってしまうんですよ。ラビリンスに入ってしまって『これどうやって演じたらいいんだろう?』と。(徳川家康役の)内野聖陽さんは『一口目がとってもおいしいんだけど、そこから段々、分からなくなる』と言っていて、僕も全くその通りだと思いました。パラノイアチックな集中と野放図のような開放感、けたたましい騒乱と叙情的なもの、名誉とスキャンダル…、対局にあるものが全部一緒に入っているんです」と“三谷ワールド”の複雑さを表現する。

 撮影がスタートする前は「こりゃ大変な役を引き受けちゃったな…」と不安を感じたという。それでも、脚本をひたすら読み込み、時にはジャズなどの音楽を聞いて気持ちを高ぶらせるなどして役作りに没頭。ストイックに役と向き合い、三谷氏のイメージする氏政を完成させた。
 
 「(96年に豊臣秀長役で出演した)『秀吉』の時は、市原悦子さん、仲代達矢さんら偉大な大先輩が出ていらした。ワンシーン1本撮りのような世界でしたし、僕は当時22歳か23歳くらいでしたから、口から心臓が出るかと思うくらい緊張しました。そのくらい肌がヒリヒリくるようなテンションに持っていきたいと思いながら、今回、自分自身を鼓舞してやりました」
 
 豊臣秀吉(小日向文世)率いる大軍に包囲された関東の雄・北条一族。19日放送の第24話で、ついに滅亡を迎える。刻々と近づく氏政の最期へ向け「武士の一分と言いますか、武士の名誉というものを大切にしていたこの時代の典型的な武士として終わっていければと思います」と力を込めた。

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