林遣都「火花」で本気の漫才シーン 演技超え「笑かしてやろう」

[ 2016年5月8日 09:40 ]

ドラマ「火花」。漫才を披露する徳永(林)と山下(好井、右)

 「本気で笑かしてやろう」。それが作品と向き合う上での俳優・林遣都の思いだった。

 6月3日からNetflixで配信されるドラマ「火花」で、林は若手漫才師「スパークス」の徳永という主役を演じている。250万部を超えるヒットとなった、お笑いコンビ「ピース」又吉直樹の芥川賞受賞作は、若手漫才師と師匠との交流と、心の葛藤を描いたものだが、ドラマ版は本気で向き合った漫才シーンが作品の力になっている。

 「夜中2時くらいにスタッフルームをのぞくと、2人で漫才の稽古をしてるんですよ。本気でネタ合わせをやってた。あんな姿を見るとうれしくなる。漫才も、役者が演じている域ではないと思います」(吉本興業関係者)。

 徳永の相方・山下真人役は「井下好井」の好井まさおが演じている。その好井が「演技ではなく本気で笑かしてやろう」と言ったことで、林は覚悟を決めた。4カ月にわたる撮影では、ヒマを見つけて稽古に時間を割いた。「(漫才では)どうしても好井さんの言葉を聞いてしまう。間を詰めたり、テンポよく掛け合うのが難しかった。新しいネタが来る度に好井さんと相当練習しました。ボクの家でもやりました。そんな時間を共有することで、スパークスのコンビ感が出せればいいなと思って」。野球、ボクシングなどを扱ったメジャーな映画でも試合のシーンがリアルでないと白けるが、センターマイクを前にした劇中の漫才は本物だ。「少しグチャっとなっても、その場にいる人たちが笑っていたら、それでいいと思いながら演じていました」。そこには林遣都という漫才師がいた。

 原作では、喜びも哀しみも等身大の芸人を描く。思い悩む芸人の繊細な心の動きを題材にした純文学をどう扱うのか。難しいテーマだが、「さよなら歌舞伎町」の廣木隆一総監督らがそれを昇華し、世界観をそのままに映像の持つ力で押し広げた。計10話で450分にわたる作品は、スローテンポで始まり、だんだんと加速度を増していく。先輩で師匠でもある神谷才蔵を演じた波岡一喜のぶっ飛んだ芸人ぶりもハマっていた。

 林にとって大きかったのは波岡の存在だ。「この世界に入って最初に可愛がってくれた俳優の先輩。一見、キツイ関西のお兄ちゃんですが、それも場の空気を和ませようという気遣い(笑い)。本物の優しさを持っている方で“こういう男でありたい”と素直に思わせてくれる人なんです。波岡さんを見てるだけで、自然と“徳永が神谷を見ている目”になった。そこにウソはないです」。もともと師弟ともいえる信頼関係があったことが作品の成功につながった。

 お笑いにプライドを持ちながら、人付き合いが苦手な徳永が自分に重なるという林は「性格も近くて他人事とは思えなかった。ボクも徳永並みにコミュニケーション能力が欠けてますから(笑い)。徳永は芸人という仕事に対して表に出さないまでも強いこだわりを持ってます。ぼくも俳優という仕事に強い思いを持っているのですが、やっぱり同じようにうまく表せません。これは経験を踏まえ、そのまま出そうと。原作を読んでそんな気持ちになりました」という。普段はボソボソ話しながら、舞台では振り切った漫才師になる徳永役は、林が演じたことで、そこに実在しているかのようだった。

 劇中、個人的に好きな場面がある。子供の頃の徳永が「夢路いとし・喜味こいし」のネタを見て漫才が好きになるというシーンだ。記者は晩年、こいしさんと横山ノックさんの対談「つるは千年 しゃべり万年」を担当していただけに、それだけで胸が熱くなった。

 物語のクライマックスはハンカチを用意すべし。本気で笑えて本気で泣ける「火花」は全世界190カ国で配信される。お世辞抜きでオススメできる作品。日本独特の文化である漫才、そして芸人という生き方が、少しでも多くの人の目に触れたらいいなぁ。

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