石井苗子 看護師として福島支援「人は何歳からでも生まれ変われる」

[ 2016年3月11日 09:00 ]

富岡町で開かれた料理教室で、町民と話をする石井苗子(左)

 東京電力福島第1原発事故の影響で、福島県富岡町は全町避難が続いている。町民の多くが住む同県郡山市の仮設住宅を一軒ずつ訪問する看護師たちの中に、女優石井苗子(62)の姿があった。栄養バランスを考えたレトルト食品を入れた「おかず箱」を持ち、町民の健康状態をチェックして回る。震災から5年。「別人みたいに元気になった人もいるけれど、まだやり直せない人もいる」と話す。

 女優として活動していた石井は、筋萎縮症などを発症した妹の看病のため一念発起し、1997年に43歳で聖路加看護大(現・聖路加国際大)に入学。02年に看護師の資格を取得した。「人は何歳からでも生まれ変われるんだと思った」と語る。

 妹は10年夏に亡くなり、「何のために看護師になったのか」と無力感に襲われた。そんな中、震災が発生。約2週間後に聖路加看護大の教員に誘われ、言われるがままにいわき市での支援活動に参加した。

 「なんで私たちがこんな目に遭うんだ」と落ち込む被災者を目の当たりにし、自ら体験した「人は何歳からでも生まれ変われる」という言葉が浮かんだ。「妹に教わった事を私が教える番だ」。被災住民支援プロジェクト「きぼうときずな」を立ち上げ、福島県に看護師を派遣する活動を始めた。震災初年度は計1075人の看護師を派遣。以降も約20人の看護師を率いて1年に約50回、郡山市やいわき市を訪れている。

 石井の精力的な活動に触発され、避難所を出て、家族で県内外で家を探そうとする被災者も増え始めた。14年からは手芸、料理教室も開いており、「“やってみようかな”と思うだけでいい。前に歩きだす喜びが伝われば、徐々に明るくなっていく」と語った。

 原発事故で今も10万人近くが避難する福島県。富岡町は最新の調査で、震災時に約1万5000人いた人口がゼロと公表された。それでも、自分が生まれ変わったように被災者も新たな一歩が踏み出せる。その思いを胸に、石井はこれからも福島に通い続ける。

 ◆石井 苗子(いしい・みつこ)1954年(昭29)2月25日、東京都生まれの62歳。88年にTBS系「CBSドキュメント」のキャスターとしてデビュー。テレビ朝日系「ビートたけしのTVタックル」で初代ナビゲーターを務めた。90年の映画「あげまん」に出演。1メートル68、血液型O。

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