息子、俳優、父親…中村橋之助が会見で見せた多彩な表情に感じた底力

[ 2015年10月24日 10:30 ]

八代目「中村芝翫」を襲名する中村橋之助

 先月28日、歌舞伎俳優中村橋之助(50)の八代目「中村芝翫(しかん)」襲名会見を取材した。歌舞伎を生で見たことがない新人記者には、芝翫襲名のすごさはよく分からないが、会見で橋之助が見せたさまざまな表情は印象に残っている。

 橋之助の父は、人間国宝の七代目中村芝翫さん。松竹の迫本淳一社長が七代目芝翫さんがこの襲名を心から望んでいたという話をしている間、橋之助は神妙な面持ちで、涙をぬぐうこともあった。父からの遺言で「八代目を継いでほしい」と言われていたことを明かす間も、落ち着いたトーンでゆっくりと言葉を紡いだ。亡くなった父を思う息子の表情だと思った。

 その後、八代目としての意気込みを求められると「老舗の成駒屋として古典を守りながら、八代目として新しい歌舞伎を作っていきたい」と力強く語った。先ほど涙を見せた橋之助はもういなかった。「先人達から受け継いだ思いを、若い世代に伝えていくのが使命だと思っている」と話す引き締まった表情は、歌舞伎界の担い手としての決意をにじませていた。

 この日は、タレントの三田寛子(49)との間に生まれた3人の息子、国生(19)宗生(17)宜生(14)もそれぞれ四代目「中村橋之助」、三代目「中村福之助」、四代目「中村歌之助」を襲名した。息子達があいさつをしている間の橋之助は、自分の襲名よりもうれしそうで、子供の成長を喜ぶようにほほ笑みながら見守っていた。ほころんだ顔で「4人で襲名できること、感謝、感謝、感謝でございます」と話す間は、完全に父親になっていた。

 会見後の囲み取材では、13年に七代目「中村歌右衛門」を襲名することを発表した後に体調を崩し、療養が続いている兄・中村福助(54)の話題になった。申し訳なさそうに「ご心配をおかけしております」と話していたが、「おかげさまでリハビリに励み、良い方向へ進んでおります」と語る表情はうれしそうだった。勝手な感想だが、この兄弟は絶対に仲がいい。このときは“中村福助の弟”がそこにいた。

 橋之助は、会見を通じて息子、歌舞伎俳優、父親、弟と、キャリアの浅い記者でも読み取れるほどの表情の変化を見せた。視線は常に動き、迫本社長や息子達が話している間も小さなリアクションをとり続けていた。一つの会見でこんなに多彩な表情を見せる人物を見たのは初めて。歌舞伎に詳しくなくても、さまざまな役を演じられる底力を感じた。この日はそこまで触れることがなかったが、三田寛子の夫としての橋之助はどんな顔をするのか、いつか取材してみたい。(記者コラム)

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2015年10月24日のニュース