戦後70年に語り継ぐ「レッドクロス」史実伝えるドラマの力

[ 2015年8月2日 09:00 ]

自ら「赤紙」を受け取り、戦地に赴いた従軍看護師を描くTBSテレビ60周年特別企画「レッドクロス~女たちの赤紙~」(C)TBS

 戦後70年の夏、各局で戦争特番が放送される。TBSは60周年特別企画として、女優の松嶋菜々子(41)が主演を務めるドラマ「レッドクロス~女たちの赤紙~」を制作した。第2次世界大戦中、自身の信念で「赤紙」を受け取り、戦地に赴いた従軍看護師と、その家族愛を描く2夜連続の感動巨編。2日午後9時から後編がオンエアされる。「花より男子」「華麗なる一族」などをプロデュースしたヒットメーカー・瀬戸口克陽氏(41)が企画を担当。史実を伝えるドラマの力に懸けている。

 3年前、今年の夏に放送するドラマの企画がスタート。編成部の瀬戸口氏(現在は制作部)の元に、ドキュメンタリーの企画として「女たちの赤紙」が上がってきた。

 「鐘が鳴ったといいますか、ハッと気付かされたといいますか。従軍看護師と言われれば確かにと思うのですが、当時、自ら赤紙を受け取り、戦地に赴いた女性がいたことが、恥ずかしながら深く認識されていませんでした。自戒の念も込め、これは語り継ぐべき物語、ドラマの形で多くの人に届けたいと思いました」

 瀬戸口氏はドラマの力を信じている。大学生だった1993年、ビートたけし(68)主演のTBS「説得―エホバの証人と輸血拒否事件」に心揺さぶられた。85年に起こった事件が題材。交通事故に遭った息子への輸血を、父親(たけし)は宗教上の理由で頑なに拒む。ドラマのラストシーン、父親の後ろ姿に、瀬戸口氏は「最初はひどいと思っていた父親への印象がガラリと変わったんですよ。きっと、ものすごい葛藤があったのでは…と考えさせられました」と振り返る。ドラマだからこそ、心の奥底に伝わった。

 この事件も「ニュースで知ったなら事実としては認識したかもしれないですが、感情として認識したかどうか…。ドラマのフィルターを通すことで、普段は興味がなくても見てくれる方がいて、結果的にいろいろなことを感じてもらったり、考えてもらったりすることがあると思っています」。だから今回もドラマにし、あまり知られていない物語に光を照らした。

 TBS「華麗なる一族」「運命の人」「LEADERS リーダーズ」や映画「テルマエ・ロマエII」「ビリギャル」などの脚本で知られるヒットメーカー・橋本裕志氏が傑作を書き上げた。史実に着想を得たオリジナル作品。瀬戸口氏は「大きな時代の話をする時、小さな個人を描き切ることが重要です。時代全体を描こうとすると、どうしてもぼやけてしまいます。大きなうねりのある時代なので、そこで懸命に生きたヒロインと家族にフォーカスを合わせました」と脚本作りのポイントを挙げた。

 「時代背景を勉強されて、いったん自分の中で消化し、そこからオリジナルで物語を構成するのは、ものすごい労力。大変な仕事をお願いしました」。決定稿が完成したのは、今年5月中旬のクランクインの約1週間前。「半沢直樹」などの福澤克雄監督が3月に中国でロケハンしたイメージを脚本に反映したため、ギリギリになった。「大きな時代のうねりに負けない筆力。時代に負けないように懸命に生きているヒロインを描き切ってくださったと思います」と橋本氏の大仕事を称えた。

 1日放送の前編は1931年、佐賀の女学生・天野希代(松嶋)は、かつて入院中の母・絹江(浅茅陽子)を看護した看護師にあこがれ、その夢を目指していた。そして「女性でも国の役に立ちたい」と赤十字の従軍看護師になることを決意する。厳しい訓練に耐え、無事に看護師養成所を卒業。希代は赤紙を受け取り、満州(中国)に渡る。しかし待っていたのは、赤十字の信念「博愛の精神」とは程遠く、銃弾が飛び交い、常に命の危険にさらされる厳しい環境だった…という展開。

 希代は戦火の中、満州開拓団の中川亘(西島秀俊)と運命的な出会いをし、結婚。長男・博人(高村佳偉人、中村瑠輝人、工藤阿須加)に恵まれる。しかし…最愛の夫・亘とは、胸を引き裂かれる悲痛な別れ。博人とも離れ離れになる。

 希代の上司の軍医・大竹(笑福亭鶴瓶)は言う。「積み上げてきたもん、すべて奪っていく。それが戦争や。博愛か何か知らんけど、ええ加減にそんな看板下ろせ。戦争の前では無駄やということ、十分、分かったやろ。あきらめろ」――。

 後編、希代は溝口少佐(吉沢悠)と博人のいるハルピンを目指す。終戦、朝鮮戦争と時代に翻弄される希代の運命は…。

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