仕事人キムタク「ガキ」の心で全力 画面の外でも共演者と“演技”

[ 2015年7月7日 10:00 ]

 「楽屋に戻らない」「共演者のセリフまで覚えてる」――スターとして数々の“伝説”を持つSMAPの木村拓哉(42)。主演映画「HERO」(18日公開)の共演者やスタッフからも「自分が映らない場面でも、共演者が演技しやすいよう目線の先に立ってくれていた」「誰より早く現場入りしていた」などの証言が出てきた。その真偽は?話を聞きに行くと、彼の仕事人としての美学が見えてきた。

 木村を取材するようになって約8年。何度も膝を突き合わせて話してきたが、いまだに緊張してしまう。その理由がやっと分かった。こちらが話している時、目と表情をじっと見てくるのだ。適当な受け答えや、ごまかしを許さないような強いまなざしで。それが「怖い」と打ち明けると、「いつも会ってんじゃん。怖くないでしょ」と笑う。そう言って垣根を下げる気遣いを感じつつ、相手と適度な距離感を保って接するのがうまい人とも思った。

 今回の「HERO」の撮影現場でも、周囲との間や空気を大切にしていた。劇中の舞台となる検察庁城西支部で、女性検事役の女優吉田羊(年齢非公表)と会話するシーン。木村は出番を終えたのに、その場から離れようとしない。共演者の演技まで見守るのかと感心していたら、カメラの後ろで吉田と向かい合うように立って動き始めた。

 ただ動いているのではないはずだ。吉田に話を聞いてみると「木村さんはご自身にカメラが向かないカットでも、目線の先に残って演技に付き合ってくれる。おかげで共演者として凄く演じやすかったですね」と証言。そこにいるであろう役に成り切って、共演者の演技や目線をサポートしていたのだ。トップスターが画面の外でも「何かできること」を探して実行している姿に驚いた。

 木村は「自分が目線の先にいることで、絶対に(共演者の)目ん玉の動きが違ってくる。(共演者は主人公に対する)思いもキープできるから、演技もスムーズになるはず」と意図を説明。画面に映らなくても、画面に力を与えることができると信じているのだ。

 「HERO」の十八番ともいえるのが、セリフのキャッチボールに合わせて発言者が代わる代わるアップになっていく演出。それぞれの表情の微妙な変化まで楽しめると人気のこのシーンも、画面に映らない姿との“共演”から生まれた。

 常に現場を意識している人だ。仕事をする上で大切にしていることを聞いた時。「全力を出すこと。仕事の現場って(大切なのは)そこだから。まあガキに映るかもね、冷静な人から見たら」

 任されたすべての仕事、役柄に懸命に取り組んできた自負から出た言葉だろう。「子供」でも「少年」でもなく、少し荒っぽい「ガキ」という表現には最前線で汗を流す“現場組”の一員としての思いがにじむ。

 現場に立ち会ったスタッフからは、こんなエピソードも出てきた。「キャストの中で一番早く現場入りしていた」「誰よりも早くカメラ前でスタンバイしていた」

 理由を聞くと「重役出勤みたいなのがイヤ」とキッパリ。「みんながスタンバイしてるんだったら、自分らもスタンバイすればいい。セッティングの様子を見るのも楽しいしね」

 一方で「セリフの練習はしたことがない」と言う。「セリフは声に出さずに読んで覚える。劇中の言葉は用意しておいたものじゃないはず。だから、声に出して自分で聞いておくと演じる時にバランスが取りづらくなる」

 セリフは現場でのリハーサルで初めて声に出す。「現場を見て、自分なりに考えてきたものをはめて、気の赴くまま演技してみる。そんな感じ」。「今この場」に合わせて、ひらめくままに表現していく。俳優、歌手、タレントと多彩な顔を持ち、さまざまな現場と向き合ってきたからこそ可能なアプローチだろう。

 42歳。先月まで放送されていたテレビ朝日の連続ドラマ「アイムホーム」で父親役に挑戦。その影響もあってか、俳優としての「転換期」を指摘されることも増えた。ただ、木村にとって重要なのはどんな役を演じるかではない。引き受けた役をどう演じるかだ。「僕はあくまで兵士でありプレーヤー。部隊やチームの勝利のためにやれることをやるだけ」

 20年以上にわたってメディア界を引っ張る「ヒーロー」を形作ってきたのはこの感覚だと思った。

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2015年7月7日のニュース