西野カナ、作詞の極意は「アンケート」 自身の恋愛観よりみんなの意見
10代の女性層にカリスマと呼ばれた歌手西野カナ(25)が20、30代と支持を広げている。自作の歌詞が大人っぽくなってきたためで、最新アルバム「with LOVE」はオリコンチャート首位を記録した。作詞をする過程でレジュメを書いたり、アンケートを取るなど、独特な手法が西野の個性を引き出している。その手法に迫ると、ある5人の存在が見えてきた。
大学生のリポートか、就活生のエントリーシートか、それとも銀行員の稟議(りんぎ)書か。西野の作詞作業は、これらを作成するのに匹敵するほど、慎重に慎重を重ねて行われる。「大学のリポート?確かに、そういう感じ」と笑うと、作業工程を順を追って説明してくれた。
「先に曲を作ってもらって、その曲のイメージからどういう歌にするか、まずレジュメを書く。次に長い仮タイトルを付けて、主人公を設定して詞を書きだす。詞も凄く長いのを書いて、次にアンケート。これが大事。アンケートを基に添削していって、残った詞を音にはめていく。キーになりそうな言葉はサビとかサビ前後に。タイトルも添削して短くする」
この中で最も独特な作業は「アンケート」だろう。恋愛ソングであれば「こういう恋をしたことがあるか?」「あなたならどうする?」などと他人に意見を聞いて回り、歌詞に取り入れるのだ。
「恋愛観って人によって違うから、あまり偏らないようにしている。いろんな人に意見を聞いて、平均値を見つける。それを歌にした方が共感を得やすい。恋愛ソングじゃなくても同じことをしている。自分のこだわりに固執するより、いい歌になる方がいい」
この「アンケート」作業で頼りにしているのが「5人の女子友」だ。いずれも名古屋市の女子大時代の友達で、多くが会社員。結婚、出産した人もいる。
「ずっと一緒にいた親友たち。だから遠慮なく“これはいい、あれはダメ”って指摘してくれる。学生時代と変わらずに接してくれるから、凄い助けられている」
こう強調すると、三重弁が強まった。5人とは今でも定期的に会って女子会をする間柄。ほかにも、所属レコード会社の年上スタッフや、友人の妹ら、年下からも「アンケート」を取るが、遠慮なく意見を言ってくれる5人は代え難い存在だ。
5人と触れ合い続けることで身に付いたのが「OL目線」だ。
「友達は会社員が多いから、会話してても“あの部長がさ~”とか“課長がヘンでさ~”とか、そういう話が多い。私自身も18歳でデビューして周りはおじさんばかりだったし、気持ちもよく分かる。話も弾みますよ」
OLトークで一般の社会人の感覚を得る。「私自身は歌手っていう職業だけど、“働く25歳”っていう感覚は、みんなと変わらないつもりでいる。25歳って新入社員じゃないけど、仕事はまだまだできない。後輩の前では格好つけないといけないけど、まだ怒られる立場」と冷静に分析する。「芸能人」というより「25歳の社会人」という自覚が強く「まだまだ勉強が必要。ステップアップする幅はたくさんある」と話す。
OL目線でヒット曲も生まれた。女性銀行員が主人公の日本テレビドラマ「花咲舞が黙ってない」の主題歌「We Don’t Stop」(5月発売)だ。就職して2~3年目の女性を元気づけるような歌は「勇気づけられる」と評判で、オリコンのシングルチャートでは自身最高位の2位を記録した。
08年のデビューから6年たち、歌詞が大人っぽくなってきた。友人5人もまた仕事に恋に経験を重ね、参考意見も大人っぽくなってきているのだろう。
恋愛ソングに絞って、その変わりぶりをみてみると――。
♪そばにいさせて 最終バスも気にならないくらい(I、08年2月)
♪会えない時間にも愛しすぎて 目を閉じればいつでも君がいるよ(Dear…、09年12月)
♪会いたいって願っても会えない 強く想(おも)うほど辛(つら)くなって(会いたくて 会いたくて、10年5月)
♪どんな不安でも我慢していたら 今でも側(そば)にいてくれたのかな?あんなワガママ言わなきゃ良かった(たとえ どんなに…、11年11月)
♪君の最後の言葉に 立ち尽くす私がいた 「誰も悪くない」「嫌いになったわけじゃない」「今までありがとう」だなんて(さよなら、13年10月)
♪君が好きだと気づいたんだ そんな事言ったら笑うかな(好き、今年10月)
恋に真っすぐだが、どこか余裕のない若々しさが前面に出ていたのが、年を重ねるごとに自分を客観視できるようになっていく。ファンもきっと、こうした変化を楽しんでいるのだろう。
色が明るい巻き髪から「ギャル」のイメージがあったが、雰囲気もまた大人っぽくなった印象だ。「いままでは、いかにも20代前半っていう服装だったけど、25歳になる時に凄い服を変えた。柄ものをやめて、黒を基調にした服を増やしたり。もうミニ(スカート)は買わない」。髪の毛は黒に近い色に変えた。イメージチェンジも成功し、ファッションリーダーとしての人気も相変わらず高い。
アルバムには必ず「LOVE」のタイトルを入れる。5作目の最新盤は「with LOVE」。容姿と同様に今作もまた、これまでの作品とはイメージを変えた。
「今までのアルバムより心が温まる、ほっこりするような作品になった。今までの西野カナだと、悲しい曲、切ない曲が多いイメージを持たれていると思う。だからハッピーな曲を増やした」
今作の収録曲も、従来通りの作詞手法を経て生まれたが、1曲だけ例外があった。「Darling」だ。ライブなどでの観客の反応を見る限り、この歌が1番人気。8月にシングル発売している。
「この歌だけはいつもみたいな工程じゃなくて自由に作った。シングル化するつもりもなかったし。歌詞も2日間ぐらいで思うことをつらつらつらっと書いて、生活している中で自然と作った。それが意外にスタッフの評判が良くて」
それなら、自分の恋愛観だけを頼って曲作りをしてもいいのではないか。しかし、西野は「作った料理がたまに友達に“めちゃおいしい”って言われたみたいな感じ。そういう瞬間はたまにあればいい。たまに」。独自の作詞手法はこれまで通り続けていくという。
「恋はしているの?」と聞くと「それ聞きますか?」と大げさに驚いてみせ、「それを聞いたら、アルバムがあんまり面白くなくなっちゃう」とはぐらかした。こういう質問は慣れていないのだろう。焦ったような表情が印象的だった。その純粋さはデビュー時と変わっていない。
◆西野 カナ(にしの・かな)本名非公表。1989年(平元)3月18日、三重県生まれ。05年に受けた、ソニーミュージックなどが主催したオーディションをきっかけに08年にシングル「I」でデビュー。10年発売のアルバム「to LOVE」が約95万枚を売り上げた。「君って」「GO FOR IT!!」などヒット曲が多い。10年にNHK紅白歌合戦に初出場。愛称はカナやん。血液型A。
▽with LOVE 12年9月発売の「Love Place」以来2年ぶりのオリジナルアルバム。発売日は11月12日。タイトルには「みんなの日常にそっと寄り添うような、心温まるアルバムにしたい」と思いを込めた。計14曲を収録している。
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