藤圭子さん未発表曲あった 宇多田ヒカル誕生の翌年録音 1月に発売

[ 2013年12月21日 07:08 ]

藤圭子さんの「母子舟」のCDジャケット。演歌では珍しくタイトルが入っていないのが特徴的だ

 8月に他界した歌手藤圭子さん(享年62)の未発表曲が見つかり、来年1月22日に発売されることが決まった。関係者によると、一人娘の宇多田ヒカル(30)が生まれた翌年の84年頃に録音された。タイトルは「母子舟」で、藤さんが子を思う母親の気持ちを歌った珍しい作品。デビュー時からの担当ディレクターだった榎本襄氏は「彼女の人生の一ページと重なる貴重な作品」と話している。

 「母子舟」(作詞石坂まさを、作曲平尾昌晃)の音源が見つかったのは、当時レコーディングとマスターテープを作り上げる作業をした原盤製作ディレクターの林健氏(54)の自宅スタジオ。林氏は「とてもスリリングなレコーディングでした」と振り返った。

 この歌が作られた当時、藤さんは83年に娘のヒカルが誕生。家族を支えるため懸命に仕事をしていた。そこで、育ての親だった作詞家の石坂まさを氏(享年71)が藤さんの再起のために「母と子をテーマにした作品はどうか」と提案。自ら作詞し、当時テレビの「必殺シリーズ」のテーマ曲を手掛けていた平尾昌晃氏(75)に作曲を依頼した。

 ♪浮世荒波 女手ひとつ 越えていこうね 今日もまた――の歌詞は、当時の藤さんと重なるところがある。しかし、子を持つ母親の歌は初めての経験。林氏によると、レコーディングが始まった当初、藤さんは平尾氏の仮歌のテープに合わせるようにやさしく歌っていた。しかし、平尾氏から「自分の好きなように歌って」と言われると、あのドスの効いた凄みのある歌声が飛び出し、平尾氏もスタッフも圧倒されていたという。

 同じ石坂&平尾コンビの「恋して母は」という歌も録音。こちらは藤さんのやさしく丁寧な歌声が印象的で、意外な一面を知ることができる。

 当時、藤さんは週刊誌のインタビューで「いずれは母親としての立場の歌も歌っていきたい」と明かすなど、新境地を開こうとしていた。しかし「圭子の夢は夜ひらく」「命預けます」などのイメージが強かった中“母・藤圭子”を前面に打ち出した歌を発売しようとするレコード会社はなく、お蔵入りした。

 約30年たって初めて日の目を見ることになった作品。「恋して母は」はカップリング曲として収録される。藤さんのディレクターだった榎本氏は「母という立場の作品と聞き、最初は正直、抵抗感があった。しかし、作品の完成度、とりわけ彼女の中低音の音圧感ある響きは素晴らしい。彼女の歌手人生の厳然たる履歴の一ページであり、多くの方にあらためて藤圭子の凄さを知ってもらうのにふさわしい貴重な音源だと思う」と話した。

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