「被害者面するな、コノヤロー」泉谷しげるが続ける心の支援

[ 2012年3月10日 10:21 ]

応援メッセージを手にポーズを決める泉谷しげる

 はやりの「チャラ男」ならぬ「チャリ男」と呼ばれる男がいる。泉谷しげる(63)だ。チャリティー活動に熱心なため付いた愛称で、故忌野清志郎さんもこう呼んだ。

 「オレはよ、勝手に(被災地に)行って、勝手に(支援物資を)置いて、勝手にいなくなる。それだけ。自分勝手にやってるだけで誰に頼まれたわけでもねえ。いい迷惑だと思ってるやつもいると思うぜ」

 独自のスタイルがある。ライブ中によく客に悪態をつき、言い合いになるが、被災地でも変わらない。

 「悪態?どこでも平気でつくさ。“オマエら被害者面してんじゃねえぞ、コノヤロー”とか“みんな被害に遭ってんだ、甘えんな”とかね」

 そして、お決まりのように被災者の“反撃”に遭う。「うちが壊れたんだ」「両親が行方不明なんだ」。被災者は仕返しとばかりに、それぞれの胸中を泉谷に向けて精いっぱい吐き出す。

 「これがとってもいいことなんだよ。吐き出した方がいい。有名人ってのは不安とか不満の八つ当たり対象じゃないといけねえ。オレはそんなに大金を寄付できねえからよ、どんどん怒りをぶちまけてもらった方がいいんだ」

 悪態をつくのは、この展開を狙ってのこと。何十年もステージ上で客と言い合いをしてきた泉谷なりの、心の開かせ方だ。

 94年の長崎県雲仙・普賢岳噴火、95年の阪神大震災など、これまで行ったチャリティー活動は数知れない。「ファンがひどい目に遭ってるのに心配するのは当たり前のこと」。今回も震災が発生してすぐ義援金集めに奔走、何度も被災地入りした。

 そんな熱い男だが、冷静な一面もある。

 「せっかく人助けしたって、助けた人は悪人かもしれない。募金をしたって、裏では分配をめぐって醜い争いがある。もしかしたらオレたち、悪いことをしているのかもしれない」

 だから泉谷はいつも1人で活動する。その時々の協力者を得るだけだ。

 「救済や支援ってのはきれいごとじゃないんだ。何が正しいのか分からない以上、他人にも押しつけたくない。独りぼっちが一番気楽だよ」

 ただ、4月には珍しく複数で動く。宮城県川崎町で行われる野外音楽祭「荒吐ロックフェスティバル」で、仲井戸麗市(61)、吉田建(62)らとスーパーバンド「泉谷しげる with LOSER」を再結成するという。

 11日には震災発生から丸1年を迎える。

 「問題は今後もいろいろと出てくる。自分のやってることは微力だけど、やり続けたい」

 チャリ男は東北でもっと悪態をつき続ける。

 ◆泉谷 しげる(いずみや・しげる)本名泉谷茂。1948年(昭23)5月11日、東京都生まれ。71年、アルバム「泉谷しげる登場」でデビュー。都会暮らしの労働者への賛歌で支持を得る。代表曲に「春夏秋冬」など。俳優としても活躍。

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