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スポニチ宝塚通信

形は変わっても思いに“かけちがい”なし

 “人生のボタン”を、どこかで掛け違ってしまったのかも知れない……。観劇後に、誰もがそんな思いに囚(とら)われるだろう小劇場演劇「かけちがい」(マシュマロ・ウェーブ第50回公演。作・今いそむ、演出・木村健三)に元宝塚歌劇団花組男役の夏空李光が出ていた。入団6年で退団したのだという。公演は9月30日から10月5日まで、新宿・サンモールスタジオで行われたのだが、OGたちの頑張りについて思った。

 夏空の役は、新宿のクラブ・エンペラーのホステス・美月。男役だったくらいだから背が高く、多分ダンス巧者だったのだろう、胸筋や腹筋、長い手足などがダイナミックだった。“女”に戻っての演技は、どこか微笑ましく熱演が光った。

 物語はクラブ・エンペラーのホステスたちや社長、男性従業員らが織り成す、それぞれの青春や挫折が描かれていくもの。作者の今いそむ自身が、大学時代は演劇に憧れつつも公務員を目指し、就職して新聞記者に。退職して新宿で風俗店経営に乗り出し、成功したが、青春時代の夢捨てがたくこのほど風俗店経営から引退して、この作品を書いたという異色の経歴の持ち主。

 一方で作家の今東光の弟子でもある粋人で、ペンネームの“今いそむ”がそれを示す。「新宿歌舞伎町は年内でコマ劇場が閉鎖、映画館なども来年には次々と取り壊されて新たな高層ビルに生まれ変わるんです。歌舞伎町は大きく変ぼうしようとしています。そこに生きた20数年の鎮魂歌(レクイエム)を書きたかった」と語る。異色の作品への出演は、宝塚の元新進男役にとっては大変な冒険だったろうと思う。

 けれど麻乃佳世や久世星佳ら、数多くのOGたちが実は小劇場演劇やさまざまな舞台で頑張って来たことを思えば、それもまた“女優”としての必然であるかも知れない。研究科6年での退団は、彼女にとっての“青春のボタン”の掛け違いになってしまったが、舞台が好き、お芝居が、ミュージカルが好き、どんな形でもいい続けていきたいという思いに“かけちがい”は、きっとない。

 在団中の記憶は、残念ながらほとんど無いのだが、夏空は、12月には、コマ劇場最後の公演「愛と青春の宝塚〜恋よりも生命よりも」(原作・脚本・原詞大石静、演出・鈴木裕美、作曲・三木たかし)にも出演するという。紫吹淳・湖月わたる、彩輝直・貴城けい、星奈優里・大鳥れい、紫城るい・映美くらら(以上Wキャスト)ら錚々(そうそう)たるOGたちから福麻むつ美、真山葉瑠らの実力派、若手OGまで元宝塚勢27人と男優6人が出演する。

 夏空は連名の末尾から5番目の位置と、OGとしてもまだ“新人”だが、大勢の先輩たちとの共演は新しい道標となるだろう。コマ劇場最後の公演の物語は昭和14年、戦前からの宝塚の軌跡のミュージカル。当時のトップスターと新進スターやタカラジェンヌたちを取り巻く情勢は戦争へとひた走る暗い様相の中にある。

 迫る戦争の影、閉鎖される宝塚大劇場、満州などへの慰問公演……。出演者たちは、かつての大先輩たちの“愛と青春の宝塚”をコマ劇場メモリアル公演で追体験するわけだ。今の宝塚家劇団繁栄の礎(いしずえ)となった人々への思いを胸に演じ歌い、踊りつつ、宝塚の明日をも出演OGたちは、きっと見せてくれるだろう。その中の1人、まだOG下級生・夏空李光が、コマ劇場最後の公演への出演前に、異色の小劇場演劇にしていたことを、筆者は忘れない……。

[ 2008年10月17日 13:49]

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