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第232回クラシック・コンシェルジェ

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公演リポート:ロリン・マゼール指揮 NHK交響楽団定期演奏会&三ツ橋敬子 指揮 東京フィルハーモニー交響楽団定期演奏会

 今年82歳を迎えた名指揮者、ロリン・マゼールが客演したNHK交響楽団の10月定期演奏会と、新進気鋭の女性指揮者、三ツ橋敬子が登場した東京フィルハーモニー交響楽団の11月定期公演について小平和美さんがリポートする。

 

 ロリン・マゼールの初登場となったN響の定期公演。当連載9月30日の回で「ベーム、カラヤン、バーンスタインら20世紀の巨匠指揮者たちを生で聴いたことがない私にとってマゼールの来日は、いわゆる20世紀の巨匠の至芸に接する大きなチャンスとなるだろう」との期待を記したが、NHK交響楽団定期公演Aプログラムを聴いた10月14日(NHKホール)、この思いは現実のものとなった。

 

ロリン・マゼール

 前半のチャイコフスキーの組曲第3番。N響はよく鳴り、アンサンブルはいつにも増して引き締まっていた。第4曲は12の変奏曲で構成されているが、マゼールはゲネラル・パウゼ(総休止)を巧みに挟みながら、徐々にギアを上げていく。オーケストラの響きはどんどんゴージャスになりテンポは加速。第12変奏のポロネーズでトップギアとなって、劇的に幕を閉じた。マゼールのオケをドライブする手腕に魅せられると同時に、自らの記述に間違いはなかったと胸をなでおろしていた。しかし、これだけでは終わらなかった。

 

 後半の1曲目はウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のソロ・コンサートマスターのライナー・キュッヒルがソリストして登場し、グラズノフのヴァイオリン協奏曲を披露した。この日のキュッヒルは終始厳しい表情で弾いていた。マゼールとは旧知の仲とはいえ、この曲のソロ・パートは難しい上に今回はコンサートマスターとしてオーケストラをリードするのではなく、ソリストとしての技量や音楽性を示す機会であることから緊張感をみなぎらせた演奏を繰り広げたようだ。名コンサートマスターによる峻厳なソロをN響は柔らかいハーモニーで支えていたのも印象的であった。

 

ウィーン・フィルのコンサートマスター、ライナー・キュッヒルをソリストに迎えてのグラズノフのヴァイオリン協奏曲の演奏風景

 後半の2曲目はスクリャービンの「法悦の詩」。タイトルが示す通り、謎めいてつかみどころのない曲だと思う。個人的にはそんなに期待はしていなかったのだが、最初から各セクションの音が完全に混ざり合ってひとつの響きとなり、まるで青白い炎が妖艶にゆらめいているかのように感じられた。最終盤、金管楽器の強奏をきっかけにコーダへ突入。各パートの音が渦を巻きながら一丸となって沸き上がってくるかのようだった。ひとつになった響きは巨大に膨れ上がり、もの凄いエネルギーを放ちながら終わった。この驚異的な演奏にはあ然とさせられた。

 

 82歳のマゼールだが、その指揮姿はずいぶんと元気に見えた。指揮台の横には小さなステップが置かれていたので足元に不安があったのかもしれない。でも、指揮台に立つと何かが降りてくるのだろうかと思われるくらい、全身を使って大きな身振りでエネルギッシュにオーケストラをリードしていた。左手で後ろの手すりをつかみ、上半身を乗り出して第1ヴァイオリンからぐるりとヴィオラまで指揮棒でなぞるように指示を送ると、それに応えるように、というよりもまるで操られるかのように、N響からびっくりするほど大きな音が出るのだ。マゼールは、頭の中にある理想の音楽に向かってオーケストラをぐいぐいと引っ張る能力に長けている。これまでのN響定期公演において、実力派の指揮者による熱演や、長い間共演を積み重ねてきた名誉指揮者との心のこもった演奏などに出合って来た。しかし、この日のN響はそれらとはまたひと味違ったように感じられた。マゼールによって、潜在能力が120%引き出され、今まで聴いたこのオーケストラの演奏の中でも特筆すべき凄まじいまでの鮮烈なサウンドが引き出されていたからだ。マゼールが放つ堂々たる風格は、20世紀の巨匠の匂いというものなのだろう。終演後、熱狂的な拍手に何度も呼び戻されたマゼールの足下はさすがにちょっとフラフラしていたけれども。

 

 

 翌週10月19日、同じくNHKホールでCプログラム、ワーグナーの「言葉のない指環=vを聴いた。マゼールがベルリン・フィルハーモニー管弦楽団から委嘱され、楽劇4作、約17時間にも及ぶ大作「ニーベルングの指環」をCD1枚に収録可能な約70分にまとめた管弦楽曲集である。編曲者マゼールの自演であるという希少さに加え、ゲスト・コンサートマスターは名門ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団のヴェスコ・エシュケナージというまたとない機会だ。元々が4管編成の上にこの日は弦楽器が18型(第1ヴァイオリン16人を基軸に弦楽器の総計が70人となる編成)という大編成のオーケストラがステージに並ぶ様は、音だけではなく見た目にも壮観であった。

マゼールは大編成のオーケストラでワーグナーの壮大な世界を存分に描き出した

 

 演奏は「ラインの黄金」序奏から始まったが、自分で編曲したとはいえ、暗譜で振っていたのが印象的。「ラインの黄金」第2場の地底でニーベルング族が金を鍛える鉄床を金槌で叩く音が鳴り響く。いつもはオーケストラ・ピットの中から鳴るのを聴いていたが、ステージ上で叩かれると圧巻だ。マーラーの交響曲第6番のごとく木槌がドーンと振り下ろされる。雷神ドンナ―のハンマーだ!この雷鳴が「ワルキューレ」の第1幕への前奏、嵐の動機へと繋がっていく。オーケストラが壮麗に鳴る聴きどころでもある「ヴァルハル城への神々の入場」がカットされているのは残念だが、ドンナ―が起こした雷鳴が、ジークムントが駆け抜ける森に鳴り響いた嵐の雷鳴へとつないで行く何とも巧みな移行に感心させられた。

 

 その後、「ワルキューレ」の第2幕への前奏、同第3幕への前奏(有名なワルキューレの騎行)などを経て「ジークフリート」、そして「神々の黄昏」第3幕まで物語を駆け抜けるように展開した音楽が、「ジークフリートの葬送行進曲」あたりから、じっくり腰を据えた流れになった。ゆっくりとしたテンポが取られ、荘厳に鳴り響く。「神々の黄昏」最終盤の「ブリュンヒルデの自己犠牲」では、激しくうねるライン川が表現され、燃えつきたヴァルハル城が流され終わる。演奏予定時間は70分とあったが、実際は80分を優に超える大作であった。しかし、あっという間に感じられた。日本のオーケストラでこれだけハイクオリティな「指環」の演奏を聴くチャンスはなかなか訪れないだろうと感じた。生で聴けるチャンスがあれば、ぜひとも聴いてみたい。ちなみに来年4月にはミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団との来日が予定されている。

 

 

【三ツ橋敬子指揮 東京フィルハーモニー交響楽団定期演奏会】

 

 小澤征爾もその才能に注目する気鋭の女性指揮者、三ツ橋敬子が東京フィルの指揮台に再登場した。鑑賞したのは11月15日、サントリーホールで行われた公演。

 

 印象的だったのは彼女のリズム感の良さだ。1曲目のストラヴィンスキーの組曲「火の鳥」が始まって2小節くらいで、好きなタイプの指揮者だとピンと来た。足でのリズムの取り方で、音楽に入り込んでいける人だなと思う。私自身、素直に音楽を受け止め、全身で表現できるタイプの指揮者が好きなのだが、作為的にならずメリハリをつけて、小気味良さとダイナミックさを感じさせてくれる指揮者はとても貴重なのだ。聴く側を自然に作曲家の世界に連れていってくれる。08年にアントニオ・ペドロッティ国際指揮者コンクールにて女性初、最年少で優勝を果たし、10年にはアルトゥーロ・トスカニーニ国際指揮者コンクールで2位(および聴衆賞)を受賞して話題となったが、三ツ橋の感性の良さに納得させられた。

全身をフルに使って指揮する三ツ橋敬子。写真は昨年6月の東京フィル定期公演

 小柄な三ツ橋が繰り広げる躍動感に満ちあふれた指揮は、オーケストラに推進力を与えている。が、同時に観客にも与えられていると感じた。こちらも彼女の魅力の1つだろう。観ている側をフレッシュな気持ちさせてくれるのだ。そして「火の鳥」の終曲や、ムソルグスキー組曲「展覧会の絵」の古都キエフの大門では見事にスペクタクルを描いてみせた。ものすごい気迫でオーケストラをリードするのだが、全然男勝りという感じもしない。苦労は多いだろうが、音楽を作ることが楽しくてたまらないという純粋な想いだけが伝わってくる。終演後は、オーケストラの細かいパートごとに拍手を送り、自分は指揮台から降りてコントラバスにまで握手しに行って、舞台の端っこで観客からの拍手に対しておじぎをしていた。謙虚な姿勢が見て取れる。彼女はこれから、どのように年を重ねていくのだろうか。成長を遂げていく様子が楽しみな指揮者だ。

公演日程とプログラム
【NHK交響楽団 10月定期公演】

指揮:ロリン・マゼール

 

☆Aプログラム
10月13日(土)18:00 14日(日)15:00 NHKホール
ヴァイオリン:ライナー・キュッヒル
チャイコフスキー:組曲 第3番 ト短調 作品55
グラズノフ:ヴァイオリン協奏曲 イ短調作品82
スクリャービン:法悦の詩

 

☆Cプログラム
10月19日(金)19:00 20日(土)15:00 NHKホール
ワーグナー(マゼール編):「言葉のない指環=`ニーベルングの指環 管弦楽曲集」


☆Bプログラム
10月24日(水)19:00 25日(木)19:00  サントリーホール
クラリネット:ダニエル・オッテンザマー
モーツァルト:交響曲第38番 ニ短調K.504「プラハ」
ウェーバー:クラリネット協奏曲第2番 変ホ長調作品74
ラヴェル:スペイン狂詩曲
ラヴェル:ボレロ


【東京フィルハーモニー交響楽団 11月定期演奏会】

指揮:三ツ橋敬子
11月15日 東京オペラシティコンサートホール
11月16日 サントリーホール
チェロ:ガブリエル・リプキン
ストラヴィンスキー:組曲「火の鳥」(1919年版)
ブロッホ:ヘブライ狂詩曲「シェロモ」
ムソルグスキー:組曲「展覧会の絵」(ラヴェル編)

筆者プロフィール

小谷和美

【小平和美】
インテリア・ブランドのプレス、FM放送局の広報を経て、開局から TBSのデジタル&インターネット・ラジオOTTAVA の広報を務めた。デザイン、アート、ファッションなどの分野でPRディレクターとしても活躍。当連載スタート以来、公演リポートを担当。

クラシック・コンシェルジェの楽しみ方

毎週日曜日付スポーツニッポン新聞社会面と、スポニチのWebサイト「スポニチ・アネックス」、TBSのインターネット・ラジオOTTAVA、そしてスポニチと毎日新聞が配信するタブレット端末、スマートフォン向け電子媒体「TAP-i」が連動して、クラシック音楽のコンサートやオペラの注目公演の聴きどころ、みどころを紹介します。OTTAVAでは毎週金曜日の午後7時から「OTTAVA con brio」で最新号のポイントと関連楽曲を生放送します。日曜日に紙面記事やWebサイトを読みながら、オン・デマンドで音楽が聴けるという今までにない画期的なシステムです。生放送、オン・デマンドともに無料で聴取することができます。今すぐ下記のパソコン・イラストのバナーをクリックしてみてください。

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