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第150回クラシック・コンシェルジェ

東京二期会オペラ劇場 リヒャルト・シュトラウス:「サロメ」(全1幕ドイツ語上演日本語字幕付き)

現代のオペラ界を代表する名演出家ペーター・コンヴィチュニー

 歌手によるオペラ制作・上演団体である東京二期会がリヒャルト・シュトラウスの「サロメ」を上演する。最大の話題は斬新な読み替え演出で世界的注目を集めるドイツの演出家ペーター・コンヴィチュニーによるプロダクションであること。オランダのネザーランド・オペラ、スウェーデンのエーテボリ・オペラ(11年9月上演予定)との共同制作で、既に一昨年11月にネザーランドでプレミエ上演が行われている。

ネザーランド・オペラで上演されたコンヴィチュニー演出の「サロメ」の一場面

 舞台設定はキリスト誕生後の中東から現代の地下室へと移されている。地下室という閉鎖的な空間への移行が現代社会の閉塞感を象徴的に表現し、そこでうごめく男女が性的にもインモラルな言動を繰り広げるというもの。現代社会の退廃した姿を凝縮した形で表現し、誰も想像がつかないほどの衝撃の結末を迎えるという読み替えが施されている。プレミエ時にはブラボーとブーイングが交錯するコンヴィチュニーのプロダクションの定番≠ニもいうべき光景が展開され、賛否両論が渦巻いたという。1905年の初演時には問題作≠ニしてさまざまな物議を醸した「サロメ」が1世紀の時を経て、コンヴィチュニーの手によって再び問題作≠ニして先鋭なタッチで観客・聴衆にさまざまな角度から問題を提起した格好だ。

コンヴィチュニーの信頼も厚い指揮者のシュテファン・ゾルテス

 コンヴィチュニーは往年の名指揮者フランツ・コンヴィチュニー(1901〜1962)の子息ということもあり、現代のオペラ演出家の中ではとりわけ譜読みの能力に長けているといわれている。このため過激な読み替え演出を施しても音楽の邪魔をするようなことは皆無で、十分なスコア・リーディングに立脚し、作品の本質を掘り下げた舞台作りを行うことで、ドイツ語圏を中心に高い評価を得ている。

サロメを演じる林正子

 今回、指揮を任されたシュテファン・ゾルテスもコンヴィチュニーの強い推薦で来日することになった。ドイツ国内のオペラの分野ではリヒャルト・シュトラウスのスペシャリストとして手堅い手腕を発揮し評価を得ている。オーケストラ・ピットには東京都交響楽団が入り、コンヴィチュニーとの息もピッタリのタクトの下、ステージと一体となった密度の濃い上演が期待できそうだ。

Bキャストのサロメ役大隅智佳子

 このコンビを迎えて二期会側は、題名役に林正子、大隅智佳子、ヨカナーン役に大沼徹、友清崇という中堅の実力歌手をダブル・キャストで配し万全の態勢で臨む。鬼才と呼ばれるコンヴィチュニーが21世紀の今、20世紀の問題作にどんな角度で切り込んでいくのか、 そこで日本人歌手がどんなパフォーマンスを披露できるのか、彼らの存在価値すら問われかねない緊迫のステージとなりそうだ。

作品について
 オペラ・楽劇の作曲者としてのリヒャルト・シュトラウスの名前を世界中に知らしめた問題作。題材は旧・新約聖書に記述があるヘロディアスの娘サロメを主人公に新約聖書に登場する預言者ヨカナーン(洗礼者ヨハネ)を絡めて創作された英国の作家オスカー・ワイルドの戯曲。このドイツ語訳を作者自身が大幅にカットを施しオペラ台本に仕上げた。その官能的かつ衝撃的なストーリーとそれまでにない刺激的な音楽から「問題作」とされ、初演直後から上演禁止となる劇場が続出したという。

 ワーグナーの影響から脱却しきれなかった最初のオペラ「グントラム」、ワグネリズム超越を意識しすぎる余りに、ち密さを欠いた「火災」と劇音楽の分野では十分な成功を得られなかったシュトラウスだったが、20世紀に入って一気に独自の境地を切り拓くことになったのが「サロメ」である。全1幕、上演時間はわずか1時間半余。その中で人間の奥底に横たわるさまざまな形の性衝動や残虐さを余すところなく描いている。この短さこそが、長大なワーグナー作品の対極にあることを象徴している。さらにワイルドの巧みな戯曲化によって聖書に題材を取りながらも、まるで史実のような現実感を帯びながら人間の内側に眠るグロテスクな一面に光を当てている点もワーグナーの神話的普遍性と一線を画したものとなっている。

 音楽面ではイタリア・オペラのような独立したアリアなどは一切なく、音楽が間断なく続く中でストーリーは展開されていく。ワーグナー流の半音階進行をさらに突き詰め、調性の壁の限界ギリギリにまで踏み込んだオーケストレーションも問題作とされた要因のひとつであろう。オーケストラ編成は弦5部に完全4管、多数の打楽器、チェレスタやウインド・マシン、ハルモニカニウムなどの特殊楽器も必要とする。この大編成オーケストラを駆使しオーケストレーションの名人リヒャルト・シュトラウスは、さまざまな不思議な響きやサウンドを創出してみせ、劇的効果を一層高めていることもポイントといえよう。

 預言者ヨカナーンが井戸から出入りする際の雄弁な音楽や、妖艶な「七つのヴェールの踊り」、さらには終盤、井戸の中で預言者ヨカーンが斬首される様子を実際の芝居ではなく、オーケストラの音のみで不気味に描写しているところもシュトラウスの手腕が存分に発揮された聴きどころといえよう。

☆あらすじ&聴きどころ
◇第1場◇
 序曲や前奏曲がなしにいきなり幕が開くと、そこは領主ヘロデの宮殿。夜空には月が尋常ならざる光を放っている。クラリネットが演奏する不気味な雰囲気の上行旋律は「サロメの動機」。これにチェレスタやハルモニカニウム、弦楽器、フルートが応じ超常的な雰囲気を醸し出す。

 警護隊長でシリア人のナラボートが「今宵のサロメはひと際美しい」とうっとりと語る様子に、友人の小姓が嫉妬の炎を燃やす。20世紀初頭ではまだタブーとされていた同性愛の要素が見て取れるシーン。やはり問題作である。そこにユダヤ人たちが登場し議論を繰り広げる。さらに井戸の中からは預言者ヨカナーンの声が響く。ヨカナーンは救世主の到来が近いことを告げ、ヘロデとその妻ヘロディアスの堕落を非難していた。というのもヘロデは実兄を殺し、その妻であったヘロディアスを王妃にしていた。さらにヘロデはヘロディアスの美しい娘であるサロメを虎視眈々と狙っていたからだ。

◇第2場◇
 宴席でヘロデはサロメにあからさまな愛欲の視線を注いでいた。それを逃れてサロメは満月に照らされたテラスへと姿を現す。すると井戸の底から響くヨカナーンの声。どうしてもヨカナーンの姿を見たくなったサロメは自分に好意を抱くナラボートを言葉巧みにその気にさせ、ヨカナーンを井戸から出させようとする。オーケストラの間奏によってヨカナーンが井戸から引き上げられてくる様子が描写される。

◇第3場◇
 荘重な「ヨカナーンの動機」とともに姿を現した預言者は、ヘロデとヘロディアスを非難する言葉を吐き捨てヘロデの権力にも一向に恐れる様子はない。その青白く不気味な姿に一層興味をそそられるサロメ。自分はヘロディアスの娘であることを告げるとヨカナーンは嫌悪感をあからさまにする。ヨカナーンに触れようと迫るサロメ、拒絶するヨカナーン。情欲の炎を燃え滾らせたサロメは執拗に口づけを求める。この様子に絶望したナラボートは短刀で自らの腹を刺し死んでしまう。しかし、この騒ぎもサロメの眼中にはない。あるのはヨカナーンの赤い唇だけだった。そんなサロメにヨカナーンは呪いの言葉を残して井戸の底へ戻っていく。オーケストラは「ヨカナーンの動機」などを力強く演奏する。

◇第4場◇
 サロメを捜しにヘロデがテラスに出てくる。ナラボートの遺体から流れる血に足を滑らせ、上空からは大きな羽音のような不気味な響きがこだます。不吉な予感にさいなまれるヘロデだが、それでもサロメに対する愛欲の情は抑えきれない。井戸からは再びヨカナーンの声が響く。それは救世主の到来が近いことを告げたものだったが、また自分が非難されていると勘違いしたヘロディアスは苛立ちを募らせ、預言者の身柄をユダヤ人たちに引き渡すよう要求する。しかし、神罰を恐れるヘロデは言を左右にしながら妻の要求をかわす。「ヨカナーンは偉大な預言者であり、神を見た男だ」とのヘロデの言葉がユダヤ人たちの救世主論争を巻き起こす。ナザレから来た救世主(キリスト)が起こした奇跡に議論が及ぶに至りヘロデはさらに恐れをなす。それを愛欲の思いで紛らわせようとするかのようにサロメに踊りを要求。嫌がるサロメに望みのものを何でも与えるからとせがんだ。

 サロメは約束を必ず履行することを誓わせると妖艶なダンスを始める。これが有名な「七つのヴェールの踊り」。打楽器群が主体となった前奏部分が静まると、オーボエの妖艶な旋律に乗って最初は静かに踊り始めるのだが、身にまとった7枚のヴェールを1枚ずつ脱ぎ捨てるうちに音楽も次第に熱を帯び、最後は狂乱のダンスとなってサロメは息を切らして倒れこむ。実際のオペラ公演でもプロポーションに自信のある歌手は本当に全裸になったり、あるいは代役のダンサーがヌードを披露したりもする場面。また、この官能的かつ精緻な音楽は独立したオーケストラ・ピースとしてしばしばコンサートでも取り上げられることが多い名曲でもある。

 満足したヘロデがサロメの望みを尋ねると「銀の盆に載せたヨカナーンの首が欲しい」と答える。預言者を殺すことを恐れたヘロデは別のもので納得させようと試みるが、サロメの望みは変わらない。ついに、ヘロデはあきらめてサロメの願いを聞き入れる。屈強な首切り役人が井戸の底へ降りていく。井戸の側ににじり寄り耳を澄ますサロメ。ティンパニの弱音のトレモロが不気味な沈黙の時を表現。一転、オーケストラの大音響とともに井戸の口から銀の盆に載せられたヨカナーンの生首が持ち出される。思わず目を背けるヘロデ。狂喜したサロメはその首を抱きかかえ、「ヨカナーン、今こそ口づけしてあげる」と恍惚の表情で血がしたたる生首の唇に自らの唇を重ねる。あまりのグロテスクな姿についにヘロデは、「あの女を殺せ!」と命じる。我を忘れ生首に接吻を続けるサロメに兵士たちが群がり厚い鉄の盾で圧殺する。打楽器の大音響とともに幕。

■スタッフ&キャスト
指揮:   シュテファン・ゾルテス
演出:   ペーター・コンヴィチュニー
       22日、25日 / 23日、26日
サロメ:   林 正子 / 大隅 智佳子
ヘロデ:   高橋 淳 / 片寄 純也
ヘロディアス:板波 利加 / 山下 牧子
ヨカナーン: 大沼 徹  / 友清 崇
ナラボート: 水船桂太郎  / 大川 信之
管弦楽:   東京都交響楽団

☆公演日程
2月22日(火)19:00 東京文化会館 大ホール
2月23日(水)14:00  〃         
2月25日(金)19:00  〃
2月26日(土)14:00  〃

☆作品データ
 原作:新約聖書「マタイによる福音書」第14章、「マルコによる福音書」第6章など
 台本:オスカー・ワイルドの戯曲「サロメ」(ベートヴィヒ・ラッハマンによる独語訳)
 作曲:リヒャルト・シュトラウス
 初演:1905年12月9日、ドレスデン宮廷歌劇場
 設定:紀元30年ごろ、シリア・ガリラヤ湖に面したヘロデの宮殿のテラス

☆プロフィール
【ペーター・コンヴィチュニー】
 現代を代表する世界最高のオペラ演出家のひとり。1945年フランクフルト生まれ。2歳のときからオペラに親しむ。父で指揮者のフランツ・コンヴィチュニーがライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の音楽監督に就任したため旧東ドイツに移住、(旧東)ベルリンのハンス・アイスラー音楽大学で演出を学ぶ。オペラ専門誌「オーパーンヴェルト」にて95年以降5度「年間最優秀オペラ演出家」に選出される。05年二期会「皇帝ティトの慈悲」は「音楽の友」誌選定日本におけるクラシック界第5位に(邦人公演最高位)ランクされるなど大絶賛を得た。

クラシック・コンシェルジェの楽しみ方

毎週日曜日付のスポーツニッポン新聞文化面と、スポニチのWebサイト「スポニチ・アネックス」、そしてTBSのインターネット・ラジオOTTAVAが連動して、クラシック音楽のコンサートやオペラの注目公演と、隠れた周辺情報を紹介します。OTTAVAでは毎週金曜日の午後7時から「OTTAVA con brio」で、紙面のポイントと関連楽曲を生放送します。日曜日に紙面記事やWebサイトを読みながら、オン・デマンドで音楽が聴けるという今までにない画期的なシステムです。生放送、オン・デマンドともに無料で聴取することができます。今すぐ下記のパソコン・イラストのバナーをクリックしてみてください。

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