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世界へ行く前に――日本スーパーバンタム級タイトルマッチ

[ 2018年3月31日 11:00 ]

久我(右)は控室を訪れた和気と握手
Photo By スポニチ

 【中出健太郎の血まみれ生活】落ち着かない雰囲気のまま始まった試合は、133秒であっさり終わった。3月27日、後楽園ホールのメーンイベントは王者・久我勇作(ワタナベ)が指名挑戦者の小坂遼(真正)を1回に2度倒してTKO勝ちし、2度目の防衛に成功。メーン前に行われた、元WBA世界スーパーフェザー級スーパー王者・内山高志氏の引退式の余韻が残る中での圧勝だった。

 以前にも同じような状況で久我の試合を見たなと思っていたら、本人が説明してくれた。「前の試合は内山さんの引退発表の日で、前日に木村翔さんが世界王者になっていました」。昨年7月29日、内山氏が会見したテレビ東京から後楽園に向かい、久我の試合の合間に田口良一や京口紘人のコメントを取るなど、バタバタしたのを覚えている。今回も試合前日に山中慎介氏の引退会見が開かれ、計量を取材できなかった。ボクシング界の重要な出来事と試合が重なるのは、運が良いのか悪いのか。ただし、久我にとってはジムの大先輩である内山氏の引退式後に「つまらない試合をしたらヤバい。最低でもKOを」と気を引き締める材料になったようだ。

 久我がV2に成功し、興味深い“サバイバルマッチ”が実現へと動き出した。この日は、セミファイナルで予定されていた元日本バンタム級王者・大森将平(ウォズ)の再起戦が対戦相手の体重超過により中止。大森は代わりにスパーリングを披露したが、当初は対戦相手のジムの選手が務めるはずだったパートナーに、元東洋太平洋スーパーバンタム級王者の和気慎吾(FLARE山上)が急きょ名乗り出た。和気はスパーリング後にリング上でメーンの勝者への挑戦希望を表明し、試合後は久我の控室を訪れて対戦をリクエスト。久我も「世界へ行く前に強い選手とベルトを懸けてぜひやりたい。ファンが見たいカードとしても、和気さんとやれば盛り上がるのでは」と前向きな姿勢を示した。

 久我はWBCの7位を筆頭に4団体で世界ランク入りしており、次戦での世界挑戦にゴーサインが出てもおかしくない。だが、ワタナベジムの渡辺均会長は「久我に足りないのはキャリアだけ。世界戦の前に1試合、和気君とやれば何かつかむのでは」と“挑戦者決定戦”の交渉に乗り出す方針を示した。スーパーバンタム級は2人のほかにも東洋太平洋王者・大竹秀典(金子)、2月に世界挑戦に失敗した松本亮(大橋)、元世界王者・亀田和毅(協栄)、WBCユース・バンタム級王者の丸田陽七太(森岡)と国内に有力選手がそろっており、同会長は「本当は(挑戦者決定)トーナメントをやりたいけれど」とも明かした。

 経験不足のまま世界挑戦するよりも、厳しい試合を勝ち抜いてタイトルに挑む方がファンの支持を受けやすいし、ベルトを獲得する確率も上がるはず。現在のスーパーバンタム級世界王者で日本勢の挑戦が考えられるのはIBFの岩佐亮佑(セレス)とWBAのローマン(米国)だが、ともに指名試合を控えており、サバイバルをする時間は十分にある。左右とも一撃でなぎ倒す破壊力があり、“何か持っている”感も漂わせる27歳の久我と、世界戦を経験して“ベルトへの距離”を把握している30歳のリーゼントボクサー・和気。「世界挑戦にふさわしい権利」を懸けた対決の正式決定が待ち遠しい。(専門委員)

 ◆中出 健太郎(なかで・けんたろう)千葉県出身の51歳。スポニチ入社後はラグビー、サッカー、ボクシング、陸上、スキー、NBA、海外サッカーなどを担当。後楽園ホールのリングサイドの記者席で、飛んでくる血や水を浴びっぱなしの状態をコラムの題名とした。世界挑戦権を懸けて無敗の人気者同士が対決した98年3月の日本ジュニアライト(スーパーフェザー)級タイトルマッチ、コウジ有沢vs畑山隆則が国内ベストバウトと今も思っている。

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2018年3月31日のニュース