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村田諒太が振り返る2017世界のボクシング界「重量級、中量級、軽量級とも好試合多かった」

[ 2017年12月20日 06:40 ]

今年を表す言葉として「感謝」と色紙に記した村田諒太
Photo By スポニチ

 IBF世界ヘビー級王者のアンソニー・ジョシュア(28=英国)が9万人の大観衆の前でウラジミール・クリチコ(41=ウクライナ)を11回TKOで退けて世代交代を印象づけ、軽量級では無敵を誇ったローマン・ゴンサレス(30=ニカラグア)が連敗するという大波乱も起こった。ウエルター級ではマニー・パッキャオ(38=フィリピン)がWBO王座から陥落。代わってIBF王座を獲得したエロール・スペンス(27=米国)のように新しい波が押し寄せてきた。そんな充実した2017年世界のボクシング界を、10月にWBA世界ミドル級王座を獲得した村田諒太(31=帝拳)が振り返った。村田自身、同じクラスのV19王者ゲンナジー・ゴロフキン(35=カザフスタン)やサウル・カネロ・アルバレス(27=メキシコ)といったスーパースターとの対決に向けて階段を上がっているところだ。そんな村田の目に映った2017年世界のボクシング界は――。

■今年は「感謝」のひとこと

 ――まずは村田選手自身のことから聞かせてください。「チャンピオン」と呼ばれることには慣れましたか。

 村田「うれしい反面、恥ずかしいですね。でも、周りの反応などでチャンピオンになった実感はあります」

 ――タイトルを奪った10月22日のリング上、笑みも浮かべて楽しそうに見えました。

 「だってジミー・レノンさん(リングアナウンサー)がコールしてくれるんですよ。僕は『エキサイトマッチ』で育ってきているから、こんなうれしいことはないじゃないですか。<レノンさんがコールしてくれているよ、最高だな>と思ってグローブを合わせて拍手しました。夢の舞台ですよ」

 ――それで少し緊張が和らいだということもありましたか。

 「はい、レノンさんが夢の気持ちにさせてくれました。無理に緊張感を打ち消そうとしてもダメなんですよ。でも、それに代わるものに意識がいくと緊張は勝手にほぐれるんです。レノンさんに意識がいったことは大きいですね」

 ――初防衛戦は来年の4月に計画されているとか。

 「自分の(戦闘)スタイルは変わらないので、それで強くなれればいいと思っています。注目されることは重圧でもあるけれど、それを引き連れながらやっていきます」

 ――今年1年を表す言葉を色紙に書いてもらえますか。

 「感謝、このひとことです」

■ヘビー級はジョシュア、ワイルダーの2強状態

 ――今年の試合の中で「これは面白かった、激闘だった」というものを挙げてもらえますか。

 「まず1月には三浦先輩(三浦隆司=引退、帝拳)とミゲル・ローマン(32=メキシコ)の試合がありましたね。3月のゴロフキン対ダニエル・ジェイコブス(30=米国)も個人的には興味深い試合でした。ゴロフキン対アルバレスもありましたね。4月のジョシュア対クリチコ、あの試合はすごかった! 亀海選手(亀海喜寛=35、帝拳)とミゲル・コット(37=プエルトリコ)の試合も興奮しましたね。コットが荒い息を吐いていましたからね。負けて評価を上げた珍しいケースだと思います。それとゴンサレス対シーサケット・ソールンビサイ(30=タイ)の第1戦、第2戦ともすごかった。その階級ではカルロス・クアドラス(29=メキシコ)対ファンフランシスコ・エストラーダ(28=同)もありました。スーパーフェザー級ではフランシスコ・バルガス(32=同)対ミゲル・ベルチェルト(26=同)も激闘でした」

 ――では、階級別に話をうかがいましょう。まずは、最重量級のヘビー級が久しぶりに面白くなってきました。

 「ジョシュアというスターが現れましたね。ボクシング・バブルの国(英国)に突出した選手が現れたわけで、クリチコ戦9万人でしょう? その次のカルロス・タカム(36=カメルーン/フランス)戦も8万人。2試合で17万の観衆を集めたのだから驚きですよ。英国だけでなく世界のボクシングの価値を一段高めましたね」

 ――ヘビー級にはWBCチャンピオンのデオンテイ・ワイルダー(32=米国)もいます。

 「このところ少し技術路線に走っているのかなと思ったら、11月にはバーメイン・スティバーン(39=ハイチ/米国)を1回でバッカーンと倒した。この2人(ジョシュアとワイルダー)が戦ったらどうなるのだろうという、全世界が注目するカードですね。(元3団体王者の)タイソン・フューリー(29=英国)もトレーニングを始めたというし、クリチコも引退したけれど、どうなるか分からないし。ヘビー級は熱い時期に入っていますね」

 ――ジョシュア対ワイルダー、村田選手の予想は?

 「けっこうワイルダーにチャンスがあると思います。ジョシュアは大きな相手を得意としていないし、フットワーカーに弱い面もある。左右に動かれると弱いところがあるので、ワイルダーが長いジャブを突きながら動いてワンツーを狙っていくとチャンスはあると思います。ただ、どちらが有利かというとジョシュアでしょうね」

 ――村田選手がWBA王座を獲得したミドル級も風雲急を告げる状態ですね。

 「今年、ゴロフキンの魔法が解けましたからね。最初に魔法を解いたのがジェイコブスです。次にカネロが戦ってミドル級ウオーズになった。この2試合は面白かった」

 ――そこに前IBF世界スーパーウエルター級チャンピオンのジャーマル・チャーロ(27=米国)も絡んできました。

 「このチャーロが一番のダークホース的存在で、誰からも対戦を嫌がられている選手です。もしも僕が『ゴロフキン、カネロ(アルバレス)、チャーロの誰と戦いたいか』と聞かれたら『カネロ、ゴロフキン』と答えます。まだチャーロは知名度は低いけれど強い。でもメリットの少ない相手でもあるんです」

 ――ミドル級最強は誰でしょう。

 「それは分かりません。たとえばチャーロとゴロフキンが戦ったらどうなるか分からないし、チャーロとカネロが戦ったら僕はチャーロが勝つと思っています。カネロにとってチャーロは戦いづらいタイプだと思います。僕自身を含めて、戦って勝った者が強いということ。まだ僕は実績では彼らに及びませんが、そういう気持ちを持っています。ただ、証明しなければいけないことがあることも分かっています。誰が最強か答えは分からないけれど、そんなミドル級にいられることは幸せですね。ゴロフキンやカネロがいるのでやり甲斐がありますから。もしも彼らがいなかったら、五輪の金メダルを取ってプロで世界チャンピオンになって、これでおしまい、となっていたかもしれない。でも、2トップがいることで目指すものがあって、いくらでも上がある。そういう気持ちにさせてくれるのは、選手としてはありがたいことです」

■ショックだった 最強ゴンサレスの敗北

 ――軽量級も世界中の注目を集めました。

 「ゴンサレス効果ですよ。彼がパウンド・フォー・パウンド(体重が同一と仮定した場合のランキング)最強という評価だったため、そんな強い選手が(軽量級に)いるなら見たいと、そういうことになったわけですから。それで相乗効果が生まれ、その中で井上尚弥(24=大橋)というモンスターがアメリカに乗り込んでいった。で、ゴンサレスは負けた、と。ゴンサレスという天下人が負けたことでスーパーフライ級は一転して戦国期になりましたね」

 ――ゴンサレスの敗北は同じ帝拳のメンバーとしてもショックだったのでは?

 「ショックでしたね。これも時代の流れ、ひとつの時代の終えんなのかなと思ったけれど、まだゴンサレスはやるんでしょう? ストーリーは終わっていないわけで、これから続くストーリーが楽しみです。あの負けが人を大きくする場合もあるし」

 ――井上選手もいます。

 「エストラーダもクアドラスもいて、楽しみですね」

 ――スーパーフェザー級も活性化しています。

 「実力で見るとワシル・ロマチェンコ(29=ウクライナ)の1強時代という感じですね。その中で激しい打ち合いをする三浦先輩やメキシカンたちが盛り上げましたね。ただ、ジャーボンテイ・デービス(23=米国、前IBF王者)が惜しかった。この選手は天才肌だけれど、何回か防衛したあとで体重オーバーをやらかすんじゃないかと思っていたら、2回目の防衛戦でやりましたね」

 ――ウエルター級も群雄割拠の様相を呈しています。

 「ケル・ブルック(31=英国)の負けは痛いですね。それにしても勝ったスペンスの能力は素晴らしいと思います。3月のキース・サーマン(29=米国)対ダニー・ガルシア(29=同)のWBA、WBC王座統一戦も面白い試合でした。スペンス対サーマン、スペンス対ガルシアも興味深いですね。1月に予定されるスペンス対レイモント・ピーターソン(33=同)にも注目です」

 ――そのウエルター級ではパッキャオが伏兵のジェフ・ホーン(29=オーストラリア)に敗れてWBO王座を失いました。

 「オーストラリアでまさかの大金星を献上してしまいましたね。上院議員の仕事をしながらリングに上がって戦うことは難しいんでしょうね」

 ――今、村田選手が注目している若手、ホープはいますか。

 「ロンドン五輪組が成熟してきている中、来年あたりにはリオデジャネイロ五輪組が台頭してくるんじゃないですかね。そんな中、スーパーヘビー級で金メダルを獲得したトニー・ヨカ(25=フランス)は、彼が活躍すればフランスとヨーロッパのボクシング人気が上がるので期待しています。あとは帝拳と契約したフライ級のホセリート・ベラスケス(24=メキシコ)あたりですね。この2人は楽しみです」

 ――では、今年一番のアップセット(番狂わせ)は?

 「やっぱりゴンサレスがシーサケットに負けた試合ですかね。それ以外では、個人的にはジュリウス・インドンゴ(34=ナミビア)も大きなアップセットなんです。昨年12月にエドゥアルド・トロヤノフスキー(37=ロシア)に1回KO勝ち(IBF王座獲得)、今年はWBAチャンピオンのリッキー・バーンズ(34=英国)にも勝って、テレンス・クロフォード(30=米国)との大舞台までたどり着きましたからね。最後はクロフォードに倒されたけれど、3試合とも相手の地元に乗り込んでの試合でしょう。何もなくても勝っていけば大きな舞台に立てるんだという、それがボクサーのあるべき姿だと思わせられました。インドンゴを見ていると、そこにボクシングの夢が詰まっている感じでしたね」

 ――ありがとうございました。村田選手、来年は「誰がミドル級最強か」、その答えが出そうですね。

 「僕自身がカネロかゴロフキンと戦えたら最高ですね」

 村田諒太がゲスト出演する「エキサイトマッチ〜世界プロボクシング 2017年総集編」は、25日(月)午後9時からWOWOWライブで放送される。

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