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生き残った神話――WBC世界バンタム級タイトルマッチ

4回、ルイス・ネリに連打を浴びる山中
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 【中出健太郎の血まみれ生活】島津アリーナ京都の記者席は、山中慎介が試合を止められたロープ際の側に設けられていた。すぐ目の前で連打を浴びる姿に、これはストップが入るかもと感じ、大和心トレーナーがリングに飛び込んできたタイミングも早すぎるとは思わなかった。負けるパターンはルイス・ネリの突進に押されて前半のうちにストップと覚悟していたからか、内山高志の王座陥落に比べると不思議と受け入れることもできた。

 だが、後で映像を見返すと惜しい気持ちにもなった。山中の左を警戒して最初は前に出てこず、普段のL字ガードではなく右のグローブを高く上げ、ジャブの打ち終わりを狙うなど対策を徹底してきたネリの最後のラッシュは、荒っぽくて精度を欠き、意外と当たっていない。山中もタイミングをうかがい、左を伸ばしている。レフェリーは王者が一撃で形勢をひっくり返す試合を裁いてきた人物で、これでは止められない。攻めるネリは隙だらけで、ガス欠も起こしそう。「まだできると思った」という山中の言葉が理解できた。

 人間同士が殴り合う場面を金を取って見せるボクシングは、スポーツではあるけれど、純粋なスポーツのジャンルには入らない。早いタイミングでのストップに対し「金返せ」が起きるのも分かるが、個人的には「ストップに“早すぎる”はない」との言葉の方に賛同する。劣勢のボクサーはいつ致命的な一撃を受けるか分からないし、アドレナリンが出まくっている選手よりも、練習から状態を見ているスタッフの方が的確に判断できることも多い。だけど今回ばかりは、山中が4ラウンドを捨てるつもりで、あと20秒ほどしのいでいれば逆転も可能だったのではと悔いが残る。

 帝拳ジムの浜田剛史代表は試合時は常にコーナー下に座り、残り30秒の時点で次のインターバルでの指示をトレーナーに出している。この試合でも5ラウンドへ向けて「まだ焦る必要はない」と、後半勝負に徹するよう大和トレーナーに伝えるつもりだった。だが、大和トレーナーは時計係の村田諒太に「残り50秒」を確認すると、残り30秒となる前に止めに入った。浜田代表が指示を出す直前だった。

 今年2月。浜田代表はジムの全トレーナーに対し「選手の安全面は俺が全責任を取る。トレーナーはどう勝たせるかに集中して、棄権などの場合は俺に確認するように」と言い渡した。直前の日本スーパーバンタム級タイトルマッチで王者・石本康隆が1回にダウンを喫し、2回にラッシュを受けたのを見た田中繊大トレーナーが独断でタオルを投入したからだ。通達を受け、8年前に日本王座決定戦でKO負けした選手が亡くなる事故を経験した大和トレーナーも「吹っ切れたような表情を浮かべていた」(浜田代表)という。浜田代表は「今年、徹底したばかりだったんですが…」と繰り返し、何度もため息をついた。

 全ては結果論だ。だけど、山中には具志堅用高の日本記録、V13に並んでほしかった。記録達成が見たかったわけではない。長期防衛や複数階級制覇といった数字に縛られるより、強い相手との面白い試合の方に価値があるという風潮をつくるためにも、記録に興味を示さない山中に「記録の神話」を打ち破ってほしかった。 (専門委員)

 ◆中出 健太郎(なかで・けんたろう) 2月に50代へ突入。スポニチ入社後はラグビー、サッカー、ボクシング、陸上などを担当。1997年にボクシング担当になった際は、すぐに川島郭志、勇利アルバチャコフと長期防衛を続けていた王者が陥落。辰吉丈一郎や畑山隆則の戴冠は取材したが、長くはもたなかった。そして今回は内山と三浦隆司が引退、山中が陥落。そろそろ「インケツ記者」と言われそう。

[ 2017年8月21日 12:10 ]

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