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桃色パンツはラッキーアイテム――日本ウエルター級暫定王座決定戦

[ 2017年7月6日 10:30 ]

念願のベルトを腰に巻き、次男・丈輔君を抱っこして感無量の表情の坂本
Photo By スポニチ

 【中出健太郎の血まみれ生活】ボクシング取材を担当していると、試合前日の計量で下着=パンツを目にする機会が多い。世界戦に出場する選手はシンプルなデザインの、高級そうなボクサーパンツを履いているイメージがあるが、写真や映像で紹介される機会が少ない普段の計量では「それ、誰に見せるつもり?」とツッコミたくなるほど派手な柄や色のパンツの選手も結構いる。履いている理由は、おおむね、ほほ笑ましいものなのだが。

 6月29日に行われた日本ウエルター級暫定王座決定戦の前日計量で、坂本大輔(角海老宝石)が履いていたのはピンクのショーツだった。まぎれもない女性用だ。前部はモッコリ、後ろは尻肉がはみ出していたが、坂本にそういう趣味があるわけではない。「Tバックとか、女ものの下着って凄く軽いんですよ」。快適性や計量の際にも役立つ実用面に加え、運を呼び込む意味もあったらしい。川崎真琴(RK蒲田)を手数とパワーで押し切って3―0で判定勝ちし、プロ11年目で初のベルトを手にした30日の試合後、「勝負パンツで勝ててよかった」と満面に笑みを浮かべた。

 8月に36歳になる坂本はタイトルと無縁だった。高2の5月にボクシングを始め、千葉・習志野高―拓大と名門を歩んだが、インターハイも国体も地元判定に泣かされて国体準Vが最高成績。一時はお笑い芸人を目指し、25歳でプロデビューしたと思ったら、2戦後に傷害事件を起こして逮捕された。駅で酔って絡んできた相手に胸元をつかまれて引きずられ、大事なネックレスが引きちぎられたのに腹を立てて殴ったもので、10カ月の謹慎処分を受けた。

 復帰後は積極的に日本ランカーらと拳を交えた結果、16戦して7勝8敗1分けの負け越し。だが、14年4月に有川稔男(川島)に1回TKO勝ちしたのが転機となった。引き分け2つをはさんで6つの白星を並べ、日本ランキング1位へ浮上。並行してスーパーライト級から階級を上げ、「プロテインを高校以来飲んで、筋トレもして」3年間でウエルター級の体をつくった。その間に日本同級王者になっていた有川に対して今年4月の挑戦が決まったが、王者の負傷により延期。設けられたのが、川崎との暫定王座決定戦だった。

 右まぶたと左目上からの出血も構わず、坂本は控室で次々と感謝を述べた。事件後も変わらずに練習環境を整えてくれた角海老宝石ジム、伸び悩んでいた時期に担当に就き、この日威力を発揮したボディーなどイチから技術を教えてくれた木内勲トレーナー、5年前に結婚して栄養士としてもサポートしてくれた夫人、新たなモチベーションとなった3歳と生後6カ月の息子2人。鈴木真吾会長からは「これで引退か?」とからかわれ、祝福に訪れた拓大の1年後輩・八重樫東(大橋)からは「僕、焼き肉が食べたいなあ」とおねだりされた。運を呼んだのはパンツだけでなく、支えとなる人々をひきつける愛されキャラなんだな、と思わせる光景だった。

 次戦は、自身の運命を変えた有川との王座統一戦になる。「今度戦っても負けないように、対有川で練習してきたのがよかった。もう1回、ぶちのめしてやろうと思います」。勝負パンツを確認するために、もちろん計量から取材しなくては。 (専門委員)

 ◆中出 健太郎(なかで・けんたろう) 2月に50代へ突入。スポニチ入社後はラグビー、サッカー、ボクシング、陸上などを担当。今年も後楽園ホールの興行はリングサイドの記者席最前列に座り、血まみれ生活は継続中。会場で配られている興行のパンフレットを広げ、顔の前に掲げて“ガード”しているが、頭上を越えて背中に着弾する血は防げない。パンフレットが小さいサイズの日は、ガードを諦める覚悟がいる。

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2017年7月6日のニュース