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世界のベルトに届かなかった世界一のガード――WBA世界ミドル級王座決定戦

[ 2017年5月25日 14:12 ]

10回、エンダムのパンチをガードする村田
Photo By スポニチ

 【中出健太郎の血まみれ生活】「これは村田の負けじゃない。帝拳の負けなんだ」。帝拳ジム・プロモーションの本田明彦会長(69)は悔やみきれない様子で話した。村田諒太(31)が不可解な判定負けでWBA世界ミドル級王座奪取に失敗した2日後のことだ。世界的プロモーターの同会長は試合直後にも「村田には悪いことをした。こちらの責任」と話している。

 村田は極端にジャッジの見解が異なる1―2の判定でアッサン・エンダム(33=フランス)に敗れた。ジャッジの1人、ラウル・カイズ氏(米国)が117―110で村田を支持した採点が妥当、という意見が大半を占める。判定の誤りを認めたWBAのメンドサ会長も、この数字だ。

 一方、残り2人のジャッジのうち、116―111でエンダムを支持したグスタボ・パディージャ氏(パナマ)は「独自の採点」をする人物として有名。前WBA世界スーパーフェザー級スーパー王者・内山高志(ワタナベ)が相手棄権により9回終了TKO勝ちした14年12月のV9戦でも、残り2人のジャッジが9回を終えて88―82、90―78の大差としていたのに、唯一85―85と採点して関係者をあ然とさせた。また、115―112でエンダムの勝利とした70歳のヒューバート・アール氏(カナダ)も、手数が多いエンダムのような選手を極端に支持するジャッジとして知られていた。

 世界戦のジャッジは基本的に中立国の人間を認定団体(今回はWBA)が選んで送り込み、プロモーターは特定の人物を指名できない。しかし、問題がある人物と判断すれば拒否することは可能だ。本田会長は「負けを勝ちにされるのが一番嫌だった」と“地元判定”で村田がいわくつきの世界王者となるのを恐れていた。だが、結果的に不利となるジャッジ構成を受け入れたことで、“勝てる環境”をつくれなかった責任を感じている。村田が想定以上にエンダムを押し込み、ポイントもリードしていると判断して、前のめりになりすぎて不要な一撃をもらわないように指示を出したのも、陣営の判断ミスだったと言う。

 「村田は作戦どおり、完璧な仕事をした。あんなに作戦を忠実に実行できる選手はいない」。本田会長が絶賛したのは、両手を顔の高さの位置に保ったガード。1ラウンド目は相手が打ってきてもガードを固めたまま、パンチをほぼ出さずに前進してプレッシャーをかけ続けた。元世界王者に対して、手を出すことなく前進し続けることが、どれだけ勇気のいることか。「村田は頭、体力、ハートは世界レベル」と本田会長が話すのも分かる。もちろんこのラウンドは失ったが、前戦で1回KO勝ちしたエンダムの右カウンターを警戒していた村田陣営には作戦どおりで、必要な3分間だった。エンダムの右オーバーハンドを見切った村田は、その後のパンチを高く上げたガードでことごとくブロックした。

 ボクシングの基本とされるガードだが、途中で下げることなく12ラウンドを終えるだけでも相当な精神力と体力が必要だ。ましてスピードとパワー、スキルを兼ね備えた世界クラス相手に、ガードを崩さないまま有効な攻撃を仕掛けるには、高度な技術と判断力も求められる。「村田のガードは世界一だよ」――60年もボクシング業界にいる本田会長の言葉は、自慢でも負け惜しみでもない。だからこそ、村田を敗者にしてしまった悔恨があるのだ。 (専門委員)

 ◆中出 健太郎(なかで・けんたろう) 2月に50代へ突入。スポニチ入社後はラグビー、サッカー、ボクシング、陸上などを担当。村田はボクシング担当に復帰した昨年から取材。いつも笑顔で入場してくる男が今回ばかりは厳しい表情で花道を歩いてきたのが印象的。リングサイドで記した自己採点は、村田の手数の少なさが気になって辛めにしたものの、ダウンを奪った分、114―113で勝ちだった。

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2017年5月25日のニュース