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パンチを受け続ける愛情――世界戦直前の風景

ミット打ちをする松本好二トレーナー(左)と八重樫東
Photo By スポニチ

 【中出健太郎の血まみれ生活】ボクシングのWBC世界バンタム級王者・山中慎介(帝拳)を担当する大和心トレーナーは、防衛戦へ向けた練習期間中に3キロやせるという。世界戦の前は山中にかかり切りで、他に担当する15人ほどの選手はあまり面倒を見ることができない。「世界戦がない時の方がミットを持つラウンドも多くて、忙しいはずなんですが」。選手を万全の状態でリングへ上げるため、トレーナーもメンタルや体力を日々削り、ともに戦っている。

 20日と21日に東京・有明コロシアムで行われる世界戦が近づくにつれ、練習でパンチを受けるトレーナーたちの手首や腕にテーピングやサポーターが目立つようになってきた。WBO世界スーパーフライ級王者・井上尚弥(大橋)の父・真吾トレーナーは右手首を痛め、公開練習でミットを持てなかった。IBF世界ライトフライ級王者・八重樫東(同)の松本好二トレーナーは両手首をテーピングで固め、右肘には「気休めのようなもの」という湿布を貼って黒いサポーターを巻いている。WBAミドル級王座に挑む村田諒太(帝拳)の田中繊大トレーナーも両肘のテーピングが増える一方。村田以外にも三浦隆司や亀海喜寛、尾川堅一ら強打者のミット打ちの相手を務める田中トレーナーはテーピングを指摘され「これはミサンガ。願いごとが増えていますから」と軽口でかわしたが、同じく清水聡や井上浩樹らを受け持ち、痛みが慢性的となっている松本トレーナーは「自分はそんな強がりは言えない」と苦笑した。

 47歳の松本トレーナーは、今年8月での閉鎖が決まった名門・ヨネクラジムの出身。現在82歳の恩師・米倉健司会長が、70歳を過ぎても自らミットを持って選手のパンチを受け止めていた姿に、改めて凄さを感じているという。アマチュアから入門した現役当初は基本から口うるさく指導する米倉会長を煙たく思ったりもしたが、自身が成長するにつれ、純粋な選手育成への情熱から出た行動であることに気がついた。試合まで間があって気が抜けていると見るや叱りつけるなど、よく選手を観察して特徴を把握していたそうだ。

 松本トレーナーは指導者として初めて世界戦に臨んだ際、練習で追い込みすぎて選手をオーバーワークにさせてしまった苦い経験を持つ。元々が真面目すぎる選手だったためだが、米倉会長から「言わないとやらんおまえとは違うんだ」とアドバイスされ、手綱を引くことを覚えてその後の指導に生かしている。今回で13度目の世界戦を迎える八重樫は、まさに「放っておくと練習をやりすぎてしまう」タイプ。選手自身の感覚を大事にしながらも、練習量を適度に抑えることに気を使って本番を待つ日々だ。

 八重樫の世界戦が終われば、1カ月後にある井上浩樹の試合へ向け、またミットを持つ日を繰り返す。「米倉会長も“おまえらは試合が終われば休めるけど、こっちはそうはいかねえんだぞ”と言ってましたね」。右肘をさすりながら力なく浮かべた笑顔には、疲労と充実、懸念と期待が入り交じった。仕事感覚だけではこなせない仕事。リング上のボクサーは孤独だが、ボクシングは決して1対1の戦いではない。 (専門委員)

 ◆中出 健太郎(なかで・けんたろう) 2月に50代へ突入。スポニチ入社後はラグビー、サッカー、ボクシング、陸上などを担当。前回ボクシング担当時代に松本好二の世界戦は2度取材。1997年5月のWBA世界ジュニアライト(現スーパーフェザー)級タイトルマッチは敵地の韓国・水原で、王者・崔龍洙(チェ・ヨンス)に判定負け。携帯電話もパソコンもない時代で、現地の公衆電話からフリーダイヤルでワープロでの記事送信を行った。

[ 2017年5月17日 09:30 ]

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