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同期生2人が演じた番狂わせ――日本ライト級タイトルマッチ

[ 2017年3月21日 08:30 ]

日本王者のベルトを肩に控室でポーズを取る西谷和宏
Photo By スポニチ

 【中出健太郎の血まみれ生活】新年は部屋も街もきれいにして迎えたい。そこで各自治体は年末、通常のごみ収集日以外に「特別収集日」を設ける。収集車は大みそかも街を走り回り、業者が休めるのは正月になってからだ。

 「ごみ屋は年末、忙しいんですよ」。3月4日、ボクシングの日本ライト級タイトルマッチで新王者となった西谷和宏が後楽園ホールの控室で苦笑していた。神戸市のVADYジムに所属する29歳。昨年の大みそかも清掃の仕事に追われ、小国以載(角海老宝石)が世界初挑戦した京都へ行くことはかなわなかった。小国は2009年のVADYジム創設時に2人で入門し、デビューした日も同じ。わずか2年で東洋太平洋王座を獲得するなど「遠い存在だった」同期生の試合を見たのは、夜遅く戻った自宅のテレビでだった。

 小国は圧倒的不利の前評判を覆してIBF世界スーパーバンタム級王者となったが、西谷には勝つ予感があったという。「作戦があると言っていた。(小国は)賢いんで勝つ気がしとった」。強打の無敗王者グスマン(ドミニカ共和国)に対しジャブで主導権を握り、ボディーでダウンを奪ったのは作戦どおり。負ければ引退も覚悟の大一番とあって、戦略を遂行する集中力も高かった。

 西谷も同じく前評判を覆してのベルト奪取だった。15年12月に当時の日本ライト級王者・徳永幸大(ウォズ)に挑んで敗れており、今回が2度目の王座挑戦。一方、昨年12月に日本同級王座を獲得した対戦相手の土屋修平(角海老宝石)は22勝18KO(4敗)の強打を誇り、大方の予想は「30歳にして覚醒した土屋の初防衛」。だが、試合は5回に右カウンターを食ってダウンした西谷が7回、左アッパーで土屋を2度倒して逆転TKO勝ちという劇的な結末を迎えた。

 試合前日、西谷は「土屋選手の右に対して左のカウンターが当たれば倒れる」と勝つイメージを具体的に口にしていた。1回の終盤にカウンターを当ててリズムをつかむと、3回からは頻繁に左へスイッチして左フックを連打。5回のダウン後にも左フックを打ち返して踏みとどまった。「まっすぐ攻めるのが僕のスタイルだけど、勝つために左フックでカウンターを狙った。土屋選手にはドンピシャで当たると試合が決まった時点で分かっていた」と明かし、再三のスイッチについても「試合をすると、相手からやりにくいと言われる。さらにやりにくくしようと、いろんなことをやった」と説明した。

 日本王座再挑戦が決まったあと、土屋のジムの同僚でもある小国からは「どちらか一方を応援はできない」と告げられたという。それでも、「1回負けているので後がない」という背水の陣で、練り上げた戦略を実行しての戴冠劇は、不思議なほど同期生と似通っていた。小国は値千金の世界王座奪取が評価され、昨年の殊勲賞に輝いた。3カ月後、西谷が同期に一歩近づいた一戦も、今年の年末を待たずに年間最高試合候補に挙がるほど鮮烈な印象を残した。(専門委員)

 ◆中出 健太郎(なかで・けんたろう) 2月に50歳代へ突入。スポニチ入社後はラグビー、サッカー、ボクシング、陸上などを担当。Jリーグが開幕した1993年、臨時で担当した鹿島アントラーズが前期優勝。TBSがカシマスタジアムで撮影した優勝番組に解説役で出演したのは自分の中の「黒歴史」。ほぼアドリブで司会進行する福留功男さんがすごいなーとおもいました。

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2017年3月21日のニュース