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無敗の日本ランカーで父子鷹でオタクのユーリが銀河の英雄を目指す件

[ 2016年12月9日 11:30 ]

12月3日、ユーリ阿久井は大野兼資に1RTKO勝ちを納める
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 【中出健太郎の血まみれ生活】期待の若手ボクサーが勝利後のリングでマイクを向けられる。「将来の目標は?」「世界チャンピオンです」。定番だ。

 12月3日の後楽園ホール。セミファイナルで1回TKO勝ちした21歳、ユーリ阿久井政悟(倉敷守安)は高らかに宣言した。「世界チャンピオンではなく、銀河チャンピオンを目指してます」――???

 まずは、試合が衝撃的だった。ライトフライ級の日本ランカー対決で、11位の阿久井は8位の大野兼資(帝拳)を右ストレートでいきなりダウンさせると、連打で一気にラッシュ。大野のセコンドがタオル投入と同時に救出のため、リングに飛び込んだほどだ。この日のメインは尾川堅一(帝拳)―内藤律樹(E&Jカシアス)の日本スーパーフェザー級タイトルマッチで、後楽園は満員。4階級制覇王者ローマン・ゴンサレス(ニカラグア、帝拳)らスター選手も観戦する中、十分すぎるインパクトを残した。

 2015年度の全日本ライトフライ級新人王だが、試合は判定勝ちで強烈な印象はなかった。後楽園のリングは全日本以来、1年ぶり2度目。見違えた内容を「最近、練習で右に磨きをかけていた。1年前よりパワーはついたかな。フィジカルトレを去年の新人王ぐらいから始めていて」と説明し、「前の前の新人王で悔しい思いをしたので」と付け加えた。

 戦績は9勝(5KO)1分け。唯一勝てなかったのが14年度の新人王西軍代表決定戦で、勝者扱いとなった対戦相手の荻堂盛太(平仲BS)が全日本へ進んだ。その荻堂を破り、全日本新人王に輝いたのが大野。阿久井にとっては2年前の“リベンジ戦”だった。今回の対戦が決まった時、大野は一時世界ランク入りしていただけに「(勝って世界ランクを)もらいたかったけど外れちゃって」と肩をすくめ、「ランクが上の選手に勝ててよかった」と話した。

 でも、知りたいのはそこじゃない。リングネームの「ユーリ」って?勇利アルバチャコフから?

 「話せば長くなるんですが」

 要約すると、同郷のキックボクサーから「顔が勇利に似ている」と言われ、ジムの会長に話したらリングネームとして申請されてしまったとのこと。「“もう出したで”って…。でも、後悔はしてない。おかげで覚えてもらえるし」。言われれば元WBC世界フライ級王者を想起させる色白の顔に、笑みが浮かんだ。

 父が元プロボクサー、環太平洋大の3年生、入場曲はシン・ゴジラ、トランクスはエヴァンゲリオン初号機カラー、しかも彼女の手作り…。記事のネタには困らないが、これだけは聞いておかないと。銀河チャンピオンって言ってたけど、あのコメントは前もって考えていたの?

 「いえ、本当に銀河チャンピオンを目指してるので。言われれば火星ででもやりますよ」。

 今の火星のチャンピオンって誰?

 「宇宙語なんで分からないんです」

 止まらない“阿久井ワールド”に引きずり込まれ、オヤジ記者は酸欠寸前だ。ところで、好きなボクサーは。「アルゲリョです」。こちらが知っている名前が出て、ホッとする。20代とは思えないチョイスだけど、目指す銀河の方向が何となく見えた。(専門委員)

 ◆中出 健太郎(なかで・けんたろう)1967年2月、千葉県生まれ。中・高は軟式テニス部。早大卒、90年入社。ラグビーはトータルで10年、他にサッカー、ボクシング、陸上、スキー、外電などを担当。16年に16年ぶりにボクシング担当に復帰。リングサイド最前列の記者席でボクサーの血しぶきを浴びる日々。

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