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漫画でも現実でもプロボクサーの1敗は「たかが1敗」ではない件

[ 2016年12月2日 11:25 ]

札束を模したメモ帳を手におどける小国
Photo By スポニチ

 【中出健太郎の血まみれ生活】漫画「はじめの一歩」を読んでプロボクサーを志した選手は多い。大みそかに世界初挑戦する小国以載(28=角海老宝石)も、その一人だ。しかも、理由がいい。「一歩が伊達英二に負けて、“これは俺が伊達を倒すしかないな”と」。主人公の幕之内一歩は19歳で挑んだ日本フェザー級タイトルマッチで、ダンディーな王者・伊達に5回TKO負けしてプロ初黒星を喫した。「プロになってから“あれ、伊達はいないんや”と気づいた」とボケをかましたが、中3時の決意としては納得できるエピソードだ。

 漫画では、敗北した一歩は再起戦1試合を挟んだ後、9カ月後に伊達が返上した日本王座を獲得して世界挑戦への道のりを固めていく。一方、小国が24歳で喫したプロ初黒星はキャリアに停滞を呼ぶ痛い1敗だった。東洋太平洋スーパーバンタム級王座を3度防衛し、世界挑戦も視界に入ってきていた13年3月のプロ11戦目で、和気慎吾(古口)の左を食って2回にダウン。10回終了後の棄権でTKO負けし、和気に王座と世界挑戦の近道を譲る形となった。

 本来の道へ戻るまでには時間がかかった。まずは環境の変化を求め、出身地の兵庫県内のジムから東京の角海老宝石ジムへ移籍。再起してノンタイトル戦3試合を消化後、14年12月に石本康隆(帝拳)との決定戦に判定勝ちして日本同級王座を獲得した。「2年待って、これ(日本王座)か。1回負けると、こんな落ちんねんな」。世界戦実現までは、そこからさらに2年を要した。遠回りを実感しているからこそ、「チャンスは何回も来ない。進退を懸ける?ハナからそのつもり。負けたら引退?それぐらいの意気込みでやっている。これが一発勝負やと思っている」。ボクサーを志してからの13年間の全てをぶつけるのだという。

 当初、陣営はWBA同級王者ネオマール・セルメニョ(ベネズエラ)への挑戦を目指していた。交渉が難航するうち、7月に大阪で和気との決定戦にTKO勝ちしたIBF王者ジョナタン・グスマン(ドミニカ共和国)がターゲットに浮上。8月中旬には対戦合意していた。一足先に世界挑戦した和気と同じ相手というのも、何かの因縁か。「不思議。(実際に対戦した)和気さんがどんな相手か見せてくれたんでラッキーやった」と話した小国だったが、「和気さんはサウスポーでグスマンも戦いにくそうだったのに、右を相手にした映像を見たらメッチャ強いじゃないですか!だまされた~」と嘆いてみせ、笑いを取るのも忘れなかった。

 ちなみに、小国の“生涯最初のターゲット”伊達英二のプロ初黒星は23歳の時。世界初挑戦でWBA世界フェザー級王者リカルド・マルチネス(メキシコ)に2回TKO負けした。一度引退した伊達はリング復帰後に日本王座から世界への道のりを歩き直し、7年後にようやくマルチネスと再戦。現在28歳の小国を上回る、30歳となっていた。(専門委員)

 ◆中出 健太郎(なかで・けんたろう)1967年2月、千葉県生まれ。中・高は軟式テニス部。早大卒、90年入社。ラグビーはトータルで10年、他にサッカー、ボクシング、陸上、スキー、外電などを担当。16年に16年ぶりにボクシング担当に復帰。リングサイド最前列の記者席でボクサーの血しぶきを浴びる日々。

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2016年12月2日のニュース