×

八重樫 辰吉激励に涙「家に帰って泣けばいいよ」

[ 2012年6月21日 06:00 ]

腫れた目でリングの下に手を合わせて謝る八重樫

WBC・WBA世界ミニマム級王座統一戦12回戦 WBC王者・井岡一翔 判定 WBA王者・八重樫東

(6月20日 ボディメーカーコロシアム=大阪府立体育館)
 試合終了後40分。八重樫の控室を、元WBC世界バンタム級王者の辰吉丈一郎(42)が訪れた。18年前、WBC世界同級王者・薬師寺保栄氏(43)との死闘に敗れた男は「俺も何回もやってるから。家に帰って泣けばいいよ」と激励。その瞬間、敗者の頬を涙が伝わった。「ありがとうございます」。失意の29歳は懸命に言葉を絞り出した。

 0―3の判定負け。それでもリング中央で八重樫は笑顔で井岡と抱き合った。両まぶたは痛々しいほど腫れ上がっていたが、充実感で満ちていた。「泥んこ試合をしてしまいました。最後は井岡君にどうもありがとうと言えて気持ち良かった」

 激闘だ。右フックを受け1回に左まぶたを腫らし、3回の左フックで右まぶたも膨れた。6、7回にはレフェリーが試合を中断。ドクターに呼ばれチェックを受けた。止められてもおかしくなかったが、「もともと目が細いので、こういう顔なんで、続けさせてほしい」と必死に訴え再びリング中央に戻った。

 長男・圭太郎君(6)とその友達に最高のファイトを見せたかった。5月に初めて参加した小学校の運動会。昼食の際に友達を連れて来た愛息から「これが俺のお父ちゃん」と紹介され、「子供は残酷。負けたら友達から何を言われるか」と痛感。ぶざまな試合をするわけにはいかなかった。パンチが見えず、次々に左ジャブを当てられても「視界が悪いから、前に出るしかなかった」。それでも10回には足を止めて打ち合いに出るなど、王者のプライドは見せた。

 ベルトを失ってもこれがボクシング人生のゴールではない。あらためて定年とされる37歳まで現役続行を誓った八重樫は、ベルトの代わりに「経験」という大きな宝物を持ち帰った。

 ◆八重樫 東(やえがし・あきら)1983年(昭58)2月25日、岩手県北上市生まれの29歳。岩手・黒沢尻工高3年でインターハイ優勝。拓大2年で国体制覇。05年3月プロデビュー。06年4月に日本人最速タイの5戦目で東洋太平洋ミニマム級王座獲得。07年6月に7戦目でWBC世界同級王者イーグル京和(角海老宝石)に挑戦も12回判定負け。昨年10月にWBA世界同級王者ポンサワン・ポープラムック(タイ)を10回TKOで破り王座奪取。

続きを表示

2012年6月21日のニュース