球拾い―大リーグのこぼれ話伝えます―

“国家斉唱騒動”拡大防いだMLBの危機管理力

[ 2016年5月29日 05:30 ]

 パドレスの「国歌斉唱事件」の大リーグ機構(MLB)の調査が終わり、「単なる人為的ミスで、球団は無罪」の結論が発表された。パ軍経営陣を驚かせた事件は1週間前の対ドジャース戦の国歌斉唱だ。球団に招かれた地元サンディエゴ市「ゲイ男性コーラス団」は、球場の音響を考慮し特別録音を作り、それを流して歌う手順にした。だが、前奏が始まり、黒のスーツ姿で整列した100人のコーラス団は凍りついた。流れたのは高らかな女性の歌声。国歌は最後まで歌われ、無言のコーラス団は軽蔑の笑いの中、退場した。団長は「なぜ録音を途中で止め、やり直さなかったのだ」と激怒した。市の人権団体は「性的少数派の人たちを大観衆の前で侮辱した」と球団調査の構え。

 パニックになった球団は、マイク・ディー球団社長がコーラス団体に謝罪し、必死の独自調査だ。場内放送を流した職員は即日解雇。そして、調査結果を発表した。専門の放送担当職員は前日起こしたバイク事故で休んでいた。代わりの職員は放送機器の扱い方を知らず、止め方が分からなかった。これをMLBは「第三者の厳しい目」で精査し、12人の証人を呼び1週間かけて再調査。MLBでは2年前にバド・セリグ前コミッショナーが性的少数者差別撤廃を目標に専門部署をつくり、ゲイ告白した元選手、元審判たちを顧問とし各球団に派遣して啓発活動を続けていた。この活動が調査の信頼性を高めた。MLBの危機管理が騒ぎの拡大を防いだのだ。

 「コーラス団がOKなら、国歌斉唱をやってほしい。この1週間は0―5で負けた気分だった」とディー球団社長。「解雇の職員は再雇用する。担当部署をどこにするかは未定」と言った。 (野次馬)

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