球拾い―大リーグのこぼれ話伝えます―

異例の買収劇 マリナーズがシアトルに残れた理由

[ 2016年5月1日 05:30 ]

 「このオーナーの変更はファンへの朗報」とシアトル・タイムズ紙は伝えた。マリナーズ球団株55%所有の任天堂が、45%を所有する17人の地元株主に株式の売却を決めた。新最高経営責任者(CEO)は少数株主のリーダー、ジョン・スタントン氏、シアトルの富豪だ。マ軍ファンは14年間プレーオフに無縁のチームにいら立っていた。だが、前CEOハワード・リンカーン氏への批判は「イチローのヒットを見せるだけのチーム」と皮肉が出た程度で少なかった。リンカーン氏は92年の球団移転危機を任天堂に買収を説得して救った恩人だったからだ。

 イチローがマ軍を去って3年。リンカーンCEOの「一度のワールドシリーズ勝利より堅実な経営を」との消極経営は時代に合わなくなった。低迷していたアストロズ、ロイヤルズと果敢なチームづくりで次々とプレーオフに進出するトレンド。01年にイチローの新人王、MVPダブル受賞の活躍でプレーオフ進出をしたのを最後にマ軍は沈んだ。以後9人の監督、4人のGMの交代でお茶を濁してきたが、ファンも地元株主も我慢は限界だった。

 実は任天堂との株式買い取り交渉は2年前から続いていた。過去の球団の株主間の買収劇は泥沼化し、ファンを白けさせるのが通例だが、マ軍の場合は発表まで情報が全く漏れなかった。「市に残すために所有した球団だ。売却する場合は地元以外の者には売らないように、という故山内溥任天堂会長の方針が、少数派が多数派から株を買い取る異例の買収をスムーズに進めた」とシアトル・タイムズ紙。スタントンCEOは「ワールドシリーズ制覇が目標」と言い切った。生涯一度も所有球団の試合を見なかったオーナーは死後もチームを救ったのだ。 (野次馬)

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