球拾い―大リーグのこぼれ話伝えます―

奥義極め続けた“スーパー打撃職人”グウィン氏

[ 2014年6月22日 05:30 ]

 渋いスーパースターだったのはシングル・ヒッターだからだろう。殿堂入りの「安打製造機」トニー・グウィン氏が今週初めに選手時代に愛用したかみたばこが疑われる唾液腺がんで亡くなった。54歳だった。パドレス一筋20年、首位打者8度など多くの記録を持つが、追悼記事で目立ったのはグウィン氏の野球好き、野球漬け、特に打撃術追究の日々だった。納得いかないスイングで本塁打が生まれ、納得のスイングでアウトになる…。そんな奥深い打撃の奥義を極めようとする“スーパー打撃職人”の姿だ。

 グウィン氏はイメージ通り難しい顔つきをつくるが、根が陽気で話し好きなのでそれが続かなかったとか。野球記者たちは、ネタに不足すると気軽にグウィン氏に声を掛けたそうだ。すると笑って記者を小部屋に誘い、夫人が録画し、編集した自分の膨大な本数のビデオテープから1本を見せながら解説するのが常だった。長話に記者が閉口したのもしばしばだが、話すことで自分の打撃を客観的な視点で分析していた。パソコンもiPadもなかった時代。今の映像による打撃解析の先駆者だった、というのだ。

 巨人OBのデーブ・ジョンソン氏がメッツ監督の時、記者たちにグウィン氏を抑える秘けつを話すのを聞いたことがある。「投手にはど真ん中に投げて、打球が野手のいるところに飛ぶことを祈れ、と教えている」。決まり文句だったらしいが、それほどグウィン氏の安打製造は止めようがなかった。

 「打撃は凄い。毎日新しい発見があり、毎日新しい課題が生まれる」が持論。試合前に1000スイングをすると言われた“スーパー打撃職人”にぴったりの言葉だと思うのだ。 (野次馬)

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