球拾い―大リーグのこぼれ話伝えます―

記者と殿堂の関係に一石投じた投票権“譲渡”騒動

[ 2014年1月12日 05:30 ]

 本年度の殿堂入りにグレグ・マダックス(355勝)、トム・グラビン(305勝)、フランク・トーマス(521本塁打)の3氏が選出された。文句なしの顔ぶれだが、実は1936年から殿堂に付託されて、在籍連続10年以上の記者による投票を続けてきた全米野球記者協会は大揺れだ。

 騒動は、殿堂がここ数年問題になっている薬物汚染疑惑のクレメンス、ボンズ氏らを殿堂入り候補者リストに載せ続けていることの是非論争から始まった。さらに記録で候補者リストを作るのなら、その基準を示すべきなのにそれもなし。殿堂は問題を全て記者協会の投票結果に丸め込んですませている、というのだ。そんな騒ぎの中で“事件”が起こった。

 あるウェブサイトが記者から投票権を買い、ファン投票の結果を記者の名で投票する企画を立てた。これにマイアミ・ヘラルド紙の記者が応じた。もっとも記者は、金銭は受け取らず「殿堂の聖人ぶった偽善的やり方に一石投じたかったので」という。記者協会からの除名覚悟の確信犯。処分は1年間の除名と殿堂投票権の取り上げで収まったが、殿堂の権威を記者協会が支え、記者協会は殿堂から特権を得る。そんな「持ちつ持たれつ」の関係が問われ始めたのだ。

 ニューヨーク・タイムズは昔から記者の殿堂投票を禁じてきた。「記者が取材対象に直接関わっては中立報道は成り立たない」との理由からだ。ワシントン・ポストなどの有力紙の間でこの考えに同調し、投票禁止をする新聞社が増えている。

 記者協会では雑誌、放送、ネット記者にも投票権を与える改革案を模索するが、「投票権を返上すべき」との声もある。ことは中立報道に関わる難問、記者協会はどうするのか…。 (野次馬)

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