【大学スポーツ】早稲田スポーツ新聞会

早稲田大学【番記者の目】10年越しの夢舞台―WASEDAのユニホームに憧れて/宇都口滉

[ 2017年10月13日 05:30 ]

2年春の優勝パレードにて。偉大な先輩と最高の瞬間を共にしたが、3年時は挫折を味わう(C)早稲田スポーツ新聞会
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 当会野球班では『番記者制度』が存在する。一年間の取材活動を通して担当選手を追いかけるのだ。この秋は春から担当選手を見続けてきた番記者が選手個人に焦点を当てた記事を執筆。各カード終了後に掲載していく。題して『番記者の目』。第3回は宇都口滉(人4=兵庫・滝川)。

 2年春にベンチ入りを果たし、翌年の3年春に神宮デビュー。4年春に満を持してスタメンに定着すると、東京六大学春季リーグ戦(春季リーグ戦)では3割6厘の高打率でチームに大きく貢献した。秋季リーグ戦ではここまで全試合にフル出場。ラストイヤーに二塁の定位置を不動のものにし、派手さはないながら目覚ましい活躍を見せている宇都口滉(人4=兵庫・滝川)。冷静で安定したプレーが持ち味の選手だが、「今、試合がすごく楽しい」と話す姿からは秘めた熱さを感じさせる。

大学での経歴だけを見れば、順風満帆な野球人生に思えるかもしれない。だが宇都口は、エリートぞろいの早大野球部にあって特異な経歴を持つ選手の一人だ。

 「ワセダのユニホームに憧れがあって。かっこいいなと小さい頃から思っていました」。早大との出会いを、こう振り返る。地元のクラブチームで野球をしていた宇都口は、早大出身のOBと話す中で早大への憧れを抱き、試合を見るようになったという。自分もあのユニホームを着て野球がしたい――。少年時代の憧れは、いつしか具体的な目標になっていた。

 地元は高校野球の聖地・甲子園球場のある兵庫県。強豪校で野球漬けの日々を送り、甲子園を目指すという選択肢もあったはずだ。しかし、ただ早大で野球をするという夢だけを見据える宇都口が選んだのは滝川高。理由はただ一つ。滝川高でなら、野球をやりながら早大への指定校推薦を狙えると考えたからだ。そして始まったのは、部活に打ち込むかたわら学業にも必死で取り組む怒とうの日々。毎日の練習でまとまった時間を取るのが難しいため、少しの移動時間も無駄にせず勉強に充てた。野球と勉強以外に費やす時間はほとんどない、息の詰まるような生活。全ては憧れのユニホームを着るためだった。

 3年間の必死の努力が実を結び見事早大への指定校推薦を勝ち取ると、迷わず野球部の門をたたいた。同期には大竹耕太郎(スポ4=熊本・済々黌)、八木健太郎(スポ4=東京・早実)ら甲子園で名をはせたエリートたち。ようやく憧れの場所にたどり着いたが、その中で「自分はやっていけるのか」と不安は尽きなかった。さらに、そういった選手たちに比べて体が小さいことも不安を助長させた。「周りに比べて体が小さい中でどうやって生き残っていくかって考えた」と、自分が目指すべき選手像を模索。そしてたどり着いた答えは、入部当初から手応えを感じていたという守備を極めることと、足の速さを生かすための小技を磨くことだった。そうしてその軸をぶれさせることなく着実にステップアップ。その姿を評価され、2年時に早くも念願のベンチ入りを果たした。

 カベにぶつかったのは3年時。早大の春秋連覇を先導した茂木栄五郎(平28文構卒=現東北楽天ゴールデンイーグルス)、河原右京(平28スポ卒=現トヨタ自動車)ら憧れの先輩が引退し、次は自分が試合に出て活躍する番だと意気込んだ。春季リーグ戦開幕前に帯同した沖縄キャンプでは、春季オープン戦初戦でスタメン起用。いよいよ回ってきたチャンスを、どうにかしてものにしたい。ところが、その強過ぎる思いが空回りしたのか本来の力を発揮できなかった。一番の強みである守備が崩れ、まさかの一試合3失策。指揮官へのアピールはおろか信用を失う結果となり、それ以降オープン戦への出場機会はめっきり減ってしまった。そして春季リーグ戦の開幕時、スタメンに宇都口の名はなかった。代打での起用にとどまり、なかなかスタメンに定着できない。秋季リーグ戦ではスタメン出場の機会を得るも、定着への決め手になるような活躍はできず。「一番悔しくて、苦しい一年間だった」。そんなもどかしい日々を支えたのは、ずっと抱き続けてきた早大への一途(いちず)な思いだった。自分はここで輝くためにやってきた。そんな気概から焦りを押し殺し、入学当初に描いた理想の選手像を目指して地道な努力を重ねた。

 迎えたラストイヤー。代々内野手の実力者がつけてきた背番号『2』を受け継ぎ神宮に立つと、これまでの取り組みの成果を一気に開花させる。春季リーグ戦で『2番・二塁』でスタメンに定着すると、チーム2位の高打率で打線をけん引。クリーンアップを任されることも増え、今やチームに欠かせない存在だ。この秋季リーグ戦でもチームが低迷する中、抜群の選球眼と確実にミートを狙いにいく打撃でここまで10安打6打点と安定した結果を出し続ける。この四年間磨き上げてきた守備では、持ち前のセンスに加え意識しているという「一歩目の早さ」でどんな当たりも難なくさばき、現段階で今季の失策はゼロ。「チームで一番うまい」(八木)とチームメートからの信頼も厚く、その好守で何度も神宮を沸かせてきた。早大でプレーする最後のシーズンで、好守にわたって申し分のない活躍を見せている。

 早大への憧れを抱いてから、約10年の月日が流れた。今自分は、ずっと目指してきたあの場所に、あのユニホームを着て立っている――。そのあふれんばかりの喜びが、「今、試合がすごく楽しい」という言葉には込められていた。残り2カード。10年越しの夢舞台に立つ喜びと感謝をプレーに込め、宇都口は誰よりも輝いてみせる。(早稲田スポーツ新聞会 記事:久野映)

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