【大学スポーツ】早稲田スポーツ新聞会
早稲田大学 待ってた大竹!ついに手にした涙の1勝
「久しぶりの勝利となりましたが、今の率直なお気持ちはいかがですか」。額に汗を浮かべながら報道陣の前に現れた大竹耕太郎(スポ4=熊本・済々黌)に、初めの質問が飛んだ。ところが、いつも理路整然とした受け答えが印象的だった大竹が、珍しく言葉を詰まらせる。「去年一年・・・チームに迷惑を掛けたんで・・・勝ちたいという気持ちで投げました」。涙をこらえながら、震えるように声を絞り出した。最後に勝ち星を挙げたのは3年春の明大2回戦。実に483日ぶりの勝利だ。
ここまでは苦難の連続だった。2年時はエースとして東京六大学リーグ戦春秋連覇と全日本大学選手権優勝に大きく貢献。春には防御率0.89で最優秀防御率のタイトルも獲得し、一躍大学球界の主役に躍り出た。ところが、3年になると大竹の投球に狂いが生じ始める。フォームを乱し、突如として勝ち星から見放された。先発しながら序盤で降板する試合が多く、特に本塁打を始めとする長打による失点が目立つように。1勝に終わった春を受け、フォームを改良して秋を迎えたが、打開には至らない。以前より真っすぐに踏み出すように変えたフォームがあだとなってボールが見えやすくなったのだ。この秋の防御率は自己最低の10.80。先発した2試合とも打ち込まれ、3カード目からはついにベンチ外に。最悪のシーズンを終えた冬、思わず漏らした。「打たれて監督がベンチから出てくる夢ばかり出てきて・・・ことしはいい試合がなかった」。
「先頭に立ってチームを引っ張っていく」。新チームが始動すると、経験豊富な大竹は投手リーダーに就任。名実ともにチームの柱として並々ならぬ覚悟を抱き、ラストイヤーに照準を合わせた。『自分らしさ』とは何なのか――。オフシーズンには不調時のフォームを分析し、軸足が一塁側に折れて体重が本塁方向に乗らない悪癖を改善。また、真っすぐに踏み出していた右足を以前のようにクロス気味に戻し、グラブを持つ右手の使い方も変えたことで自身の持ち味である『見えづらさ』も取り戻した。そしてトレーニングにより衰えていた筋肉の出力も引き上げることに成功。冷静に自分を見つめ直すことで球の質は向上し、大きな手応えをつかんだ。
ところがその矢先、またもや大きな試練が大竹を待ち受けていた。「肩が気持ち悪い」。3月頭、遠征先だった台湾で左肩に異変を感じた。東京六大学春季リーグ戦(春季リーグ戦)を目前に控えた期間にノースロー調整を余儀なくされ、実戦を経て士気を高めるチームメイトを横目に、グラウンドの外で孤独感や焦燥感と向き合い続ける日々が続く。焦らずケガと向き合ったことで春季リーグ戦は2カード目の第3週から復帰を果たしたが、急に投げ始めた投手に勝たせてくれるほど六大学は甘くなかった。復帰後初登板となった明大1回戦では同点の6回から3番手としてマウンドに上がるものの、7回裏に痛恨の決勝ソロ本塁打を許し負け投手に。立大2回戦では見方が3点差を追い付いた直後に託された9回裏、絶対に長打だけは打たれてはいけない1死一塁から右越え適時打を浴びる。劇的サヨナラ勝利に喜びを爆発させる立大ナインの傍ら、呆然とたたずむ左腕の背中はいつになく小さく見えた。明大1回戦は初回に4点を先制しながら勝ちを逃した手痛い逆転負け。立大2回戦も勝てていれば優勝を懸けて早慶戦を戦うことができただけに、いずれも悔やまれる敗戦だった。
「チームメイトの存在が支えになった。おかげでここまで折れずに頑張って来れました」。試合後の取材ではそう言ってまた涙を浮かべた。春先の故障時には、メンバー外の4年生投手の存在に支えられたという。また、現4年生の中では最も早く頭角を現わした自身に寄せられる期待は痛いほど感じていた。それとは裏腹に、期待を裏切り続ける自分。試合を壊してばかりの自分はチームに居場所がない――。人一倍周りに気を使う性格の大竹は、思いつめた。それでも、周囲は大竹を見捨てなかった。負け投手となった立大2回戦の直後、マウンド上で肩を落とす大竹のもとに一目散に駆け付けた佐藤晋甫主将(教4=広島・瀬戸内)と、寮に帰ってから大竹の部屋を訪れた八木健太郎(スポ4=東京・早実)。二人には同じような言葉を掛けられたという。「打たれるのは仕方ない。明日勝てばいいから気にするな」。仲間の気遣い、優しさに触れた大竹はふさぎ込みそうになる気持ちを必死に抑え、前を向き続けた。
秋季リーグ戦開幕戦となった前日の明大1回戦でチームは完敗。「2連敗したら『優勝』の二文字が遠ざかる」。黒星スタートを受けての2回戦、負けられない一戦の先発マウンドを託された。相手は選球眼とボールコンタクトに優れいやらしい打者がそろう明大打線。10球以上粘られる場面もあったが、許した四球は一つのみ。低めを丹念に突き、打たせて取った。ほぼ毎回走者を背負いながら2点に抑えることができたのは、これまで何度も口にしてきた『配球のリスク管理』『打者の反応を見る』を徹底できたから。事前の研究も基に一球一球マウンド上で思考を巡らせ、相手打者の弱点を突く。粘る明大打線に107球を投げさせられ、投球数や開いた点差の関係から5回2失点で降板したが、その投球は十分に復活を印象付けるものだった。「先発投手として十分役割を果たしてくれた」とは高橋広監督(昭52教卒=愛媛・西条)の評。調子が上がらない中でも起用し続けてくれた指揮官の期待に、ようやく応えてみせた。
真っ暗なトンネルをさまよい続けた末に、差し込んだ一筋の光。待望の復活勝利を挙げ、長かった苦境を乗り越えつつある。とは言え、いつまでも感傷に浸っているわけにはいかない。開幕カードでの勝ち点を懸けた明大との3回戦でも連投も辞さない覚悟だ。そして、これから約2カ月間続く秋季リーグ戦でのフル回転を誓う。「迷惑を掛けたぶん、最後に恩返ししたい」。仲間に支えられ、再び神宮のマウンドに戻ってきた背番号『13』。最後は涙をぬぐい、その力強い言葉に思いを込めた。(早稲田スポーツ新聞会 記事・郡司幸耀)
以下、コメント全文
―久々の勝利となりましたがいかがですか
そうですね・・・えーと・・・。去年一年すごく・・・チームに迷惑を掛けたんで、勝ちたいという気持ちで投げました。
―この期間はかなり長く感じられましたか
そうですね。本当につらかったんですけど・・・諦めずに・・・もがき続けてきたので。最後こうやって先発するチャンスを監督さん(高橋広監督、昭52教卒=愛媛・西条)にいただいたので、絶対に勝ちにつながるような投球をしようと思って投げました。
―前日の1回戦で先勝を許し、黒星スタートとなった翌日の2回戦でした
やはり、2連敗すると『優勝』の二文字が遠ざかるとすごく感じていたので、きょうは勝たないと優勝には近付かないという気持ちで投げました。
―しぶとく当ててくる明大打線にかなり球数を投げさせられましたが、何が粘れた要因かと思われますか
単打はオッケーで、単打を3本打たれても点は入らないという気持ちで投げました。低めに投げれば単打で収まるので、それはオッケーというキャッチャーとの共通認識の上で投げました。
―これまで勝てなかったのは何が足りなかったのか、そしてきょう勝てたのは何があったから勝てたというのはりますか
やっぱり投球の中での余裕というか、考え方というか。球の質はそんなに上がるものではないので、考え方一つをこの秋に向けてやってきて。8月の頭にオール早慶戦を地元でやっていただいたんですけど、その際にOBの道端さん(平28スポ卒=現明治安田生命)と組んで昔の感覚というか、「こうやって投げたんだな」というのが分かりました。あの時(2年時)は言いなりに投げてるだけだったので、今は下級生のキャッチャーと組む自分がそれを主導して行けるようにレクチャーしていただきました。この試合を迎えるにあたっても、密に連絡を取ってアドバイスをいただいていたので、ありがたかったです。
―具体的にいただいたアドバイスとは
野手の特徴を捉えて投げるというか。どんなにいいバッターでも絶対に打てない球種やコースはあると思うので、そういうところに投げていくというか、そこを勝負球に使う。あとは「ここはファウルを打たせる球、ここは空振りを取る球」と早い段階でツ―ストライクに持っていけるように考えていました。
―きょうは味方が先に点を取ってくれて楽に投げられたというのはありますか
それは本当にありました。初回に3点とっていただいて、1点はオッケーくらいの気持ちで投げられました。
―苦しい時に支えになったものはありますか
やはりチームメイトの声掛けは。打たれた日に部屋に来てくれて・・・励ましてくれたり、したんで・・・。それですごく・・・折れずに頑張って来れました。
―特によく来てくれた選手や印象に残った言葉は
八木(健太郎、スポ4=東京・早実)です。1年の時から一緒に遠征も多く行ってたんでというのもありますし、仲間に気配りしてくれるので。正直、チームに居場所がないというか・・・試合を壊してばかりで。居場所がない時も見捨てずに・・・、監督さんもそうですけど、そういう雰囲気をつくってくれたので、恩返しをこの秋はしていきたいなと思っています。
―この1勝をどのようにこの秋に生かしていきたいですか
きょうも2点取られて。センターが目測を誤ったかもしれないですけど、芯で捉えられたいい当たりだったので、まだ詰められるというか。全然改善の余地はあるので、まずはあした、監督さんからも「投げることあるよ」と言われているんで、全力で勝ちに行きます。次の立大戦もいいバッターが多いんで、考え方の部分プラス体が思うように動くようにトレーニングをしていきたいと思います。
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