【内田雅也の追球】究極の「待球」 ノイジーの3ランを生んだ近本の千金四球

[ 2023年5月24日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神6―3ヤクルト ( 2023年5月23日    神宮 )

<ヤ・神>7回、近本は四球を選ぶ(撮影・北條 貴史)
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 阪神で大きかったのはシェルドン・ノイジーの3ランだ。1点差に迫られた直後に突き放した。

 この一発を呼んだのは近本光司の四球とみている。7回表先頭、初めて対するレイネル・エスピナルに2球見逃しで追い込まれながら3本のファウル、4球の見極めで9球目にもぎ取った。

 俊足走者が出てクイック投法を強いた。続く中野拓夢に監督・岡田彰布は「待て」を出した。「3ー2までは待て、言うとったんや。エンドランしようと思ってたから」。恐らくは苦手な投法で制球が乱れ、1球しかストライクが入らず連続四球。ノイジーは3ボール1ストライクから置きにきた棒球を左中間にたたき込んだ。近本の四球は値千金だったわけだ。

 近本は3回表にも石川雅規の今季初四球を得ており、計27四球は村上宗隆(ヤクルト)と並びリーグ最多である。

 何しろボール球の見極めが優れている。NPB統計分析サイト『翼』によると「ボールゾーンスイング率」が19・4%で、近藤健介(ソフトバンク)、中村悠平(ヤクルト)の19・9%をしのぎ12球団最高である。「ストライクゾーンスイング率」も51・2%で12球団最低。つまり今の近本は究極の「待球」で出塁率・422(リーグ2位)をマークしている。

 チーム四球数は150個となり、依然リーグ最多。もう幾度も書いてきたが、この「四球力」が強みとなっている。

 もう一つ。今季の阪神は満塁に強い。22日まで満塁機は12球団で最多、のべ53打席あった。46打数20安打で打率・435は広島の・441に次ぐ2位。44打点は最多だ。

 この夜の先制点もその満塁で奪った。3回表1死満塁でノイジーが中前2点打。再びの1死満塁で佐藤輝明が高いバウンドの二ゴロを転がし、追加点をしるした。

 野球を愛した正岡子規に満塁の心情を伝える歌がある。<今やかの三つのベースに人満ちてそゞろに胸の打ち騒ぐかな>

 得点への期待や興奮、あるいは不安か。打者の不安は併殺打だが、岡田は「“打て”はゲッツーも含めての“打て”」と責任は自身にあるとし、打者の重圧を和らげる。

 歌にある<そゞろに>は<何ということもなく、心がそちらに動いてゆくさま。気の落ち着かないさま>と辞書にある。落ち着かぬ満塁機でも楽に打撃できているのだろう。=敬称略=(編集委員)

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