【内田雅也の追球】集中力、そして平常心。阪神・森下の凡打と一撃にそのヒントが見えた気がする

[ 2023年3月11日 05:15 ]

オープン戦   阪神6-0日本ハム ( 2023年3月10日    甲子園 )

<神・日>初回、遊ゴロに倒れ、悔しがる森下(撮影・北條 貴史)
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 阪神監督・岡田彰布が2軍監督時代(1999―2002年)、得点圏での打席で悩む打者に助言を与えている。「相手バッテリーは低め低めと攻めてくる。低めを狙えばええんよ。高め? ピンチで高めに抜けるような投手はプロやない」

 プロの極意の一つである。自身は走者三塁、外飛(犠飛)OKの場面では低めを狙って外野まで運んだ。こうして時に適時打、長打を打った。どこか今のフライボール革命の打撃姿勢に似る。
 だから、新人・森下翔太が左翼席にプロ初本塁打を放ったのも、この要領と思っていた。3回裏無死二塁の先制機。相手日本ハムは左翼手を二塁に回し外野手2人の「5人内野」を敷いている。「ゴロで内野を抜かせない」シフトだ。岡田は「外野フライを打て」と打席に送り出していた。

 岡田の極意を得て、低めを狙う「読み」で初球の直球をとらえたのだと見ていた。

 ところが、森下本人は相手のシフトに気づいていなかったそうだ。投球に集中して相手陣形など目に入っていなかった。この集中力も相当だ。

 と言うのも、森下は前の打席、1回裏1死二塁と同じ好機で、いわゆるノースリー(3ボール―0ストライク)から遊ゴロに凡退していた。「打て」が出ていた。力んだのかもしれない。

 何度か書いてきたが、大リーグ歴代2位、755本塁打のハンク・アーロンはカウント3―0では1球待っていた。<ボールを強くたたきすぎたり、悪球に手を出してしまった>苦い経験を『ホームラン・バイブル』(ベースボール・マガジン社)で打ち明けている。<だから3―2か3―1の時に打つ方が好きだ。ミートすることを一番心がけるからだ>。やはり「力み」が問題なのだ。

 若いころの掛布雅之は「平常心」がモットーだった。この文字が記された色紙を目にしたセ・リーグ職員の清岡卓行は<「集中力」は西洋的で「無心」は東洋的>と書いた=『猛打賞 プロ野球随想』(講談社)=。

 後に詩人・作家となり芥川賞を受けた清岡の考察は深い。「集中力」では力みが生じ、「無心」では無気力に陥りかねない。だから「平常心」を<これら二つの中間になろう>と感心している。

 いかに力まずにプレーできるかは永遠のテーマだ。集中力、そして平常心。森下の凡打と一撃にそのヒントが見えた気がする。=敬称略=(編集委員)

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2023年3月11日のニュース