【能見篤史氏 直撃キーマン②】阪神・青柳 「8割の力」で抑えられると気付き劇的に変わった

[ 2023年2月4日 07:45 ]

対談する青柳(左)と能見篤史氏(撮影・北條 貴史)
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(①から続く)

 青柳 僕から聞きたいんですけど、能見さんはローテが確定した立場でのキャンプは何してたんですか?

 能見 (即答で)バッティング!

 青柳 ハハハ!バッティングすか!

 能見 バッティングもそうだけど、キャンプで任されるってことは(期間中の実戦で)結果が良くなくても問題ない。自分は疲れさせに来ていた。疲れさせるためのキャンプをしていた。

 青柳 ずっと投げているイメージですもん。

 能見 投げることによって余分な力がどんどん抜けて、いい投げ方に近づいていく感じがあったから。

 青柳 どれぐらい投げるって決めていたんですか?

 能見 いや、決めてないね。体をある程度張らせたかった。これぐらい投げたら張るという免疫をつけたかった。ランニングも先にやって、昼からブルペンに入って。疲れてる時は、どんだけ力を入れてもボールがいかなくなるから、どうしようかなと。目的があった。

 青柳 僕は疲れたら明らかにフォームが悪くなるんで。自主トレから意識してましたけど、能見さんみたいに午後からブルペンは全く考えてなかったですね。

 能見 馬力が違うから。あれだけ下から投げて、あれだけ強いボールが投げられるのは相当なパワー。僕とは全く違う。結果が出てない時から見てるから。右バッターの後ろ(背中)に投げたりとか(笑い)。そんな時代を見てて、今はコントロールがめちゃくちゃいい。これだけ劇的に変わるのは何かある。気づきがあったのか、興味がある。

 青柳 3年目の時に全く試合に出られなくて。ストライクが入らないと、いくらいいボール投げていても試合にならない、と言われて。それでも“エイヤー”で投げていたんで確率が悪かった。そこで全力じゃなくても、いいフォームで投げる練習をして、ある程度ストライクに投げられるようになりました。2ボールになったらどうしようと思っていたのが、ストライクゾーンには投げられる自信が付いたので(カウント)2―2に持っていけるようになったんです。そうなれば、試合は進むと自分の中で分かってきたのが“気づき”ですね。

 能見 やっぱり気づきがあるんやね。いろんな人に教えられる中で自分で気づいて、チャレンジしてモノにするところって大事かなと思う。

 青柳 100%の強いボールを投げないと抑えられないと思っていたけど、体の使い方を覚えて、80%で投げたら抑えられると分かったら変わってきた。能見さんは初登板で3回でゼーゼー言ってる僕を見てると思うんですけど、それではダメだと分かって。今は8割の力で初回と9回と変わらず投げることができていますし、それが経験と自信で付いてきています。

 能見 一緒。僕も劇的に変わったタイプなので。08年は全然1軍で投げられなくて、09年もキャンプは2軍スタート。シーズンも先発で回ったけど、オールスター前まで4勝7敗。そこで(前半戦終盤に配置転換)ブルペンに入って、気づきがあった。巨人戦でボコボコにいかれて、延長12回に2点ぐらい取られて。球速は出てるけど普通にはじかれる。そのカードの3戦目でもう一回登板して、8割ぐらいで投げたら今度はバッターがタイミング取りづらそうにして。これや、と。次の先発機会も巨人戦だったけど、同じような感覚で投げたら9回まで無失点。10回に1点取って1―0で勝てた。後半は9勝2敗で結局13勝9敗だった。偶然だけど、同じ8割の力感で。

 青柳 考え方というか、エイヤーでは通用しないことが分かることが分かれ目でした。

 能見 でも、今の若い子にそれを言ったところで分からないと思う。

 青柳 自主トレでは村上と岡留を連れて行って“全力で投げるの禁止”とか決めてやりましたけど、やっぱりここ(キャンプ)に来ると力入ってしまう。言われてじゃなく、自分で気づかないといけないですね。

 能見 頑張ってそれだけ投げてきたから、気づきがあるわけで。投げたことによって自分に得るものが出てくる。投げていない人は疲れ方も知らない。経験は財産になるからね。

 青柳 ローテで回っていく中でつらかったことってありますか。

 能見 求められるものが上がってくる。青柳投手はタイトルも獲ってるから。

 青柳 まさに昨年がそうで…。勝って当たり前じゃないですけど、勝ちを計算して起用される。2年連続でタイトルを獲ると、3年目の今年はもっとハードルが高くなる。そこのプレッシャーがちょっとあるなと。

 能見 あまりにもいいものを求めすぎて、土台をなくさないようにしてほしい。昨年の阪神との交流戦ではオリックス打線がお手上げ状態だった。球の高さは変わらない、ボールは強い、ツーシームか直球か分からない。勝ちたいと思って、そういう部分を消してほしくない。三振を取るタイプではないし、打たせて取る投球は変えずに。岡田監督はセンターラインを中心とした守備重視を掲げている。確実にアウトを取れるところに打たせること。僕の時はショートにトリ(鳥谷)がいて、外野に福留さんがいた。困ったら、あそこにどうやって打たせようかなと。強烈な打球でもいいのよ。捕ってくれるから。(青柳は)それができる。制球もあるし、球の高さも変わらない。あとは疲れが出ないか心配。

 青柳 どうカバーしたんですか。

 能見 カバーできません!何とかしたいためにキャンプで追い込んだり…。僕の場合は梅雨に落ち込んだ。

 青柳 僕は9月の終わりがけに下がっていきます。

 能見 下がってはないんやで。(記者を指して)悪いのはこっち。勝てなくなったら状態が落ちてるとか、後半は勝てないとか雰囲気を出すけど。(記者は)もう結果しか見てないから。(うなずく記者に)はい、じゃないよ!

 ――…では、最後にエールを。

 能見 数字はもちろん付いてくるし、心配してない。みんなが認めてるレベルに入っている。あとは立ち振る舞いだったり、仲間が青柳のために何とかしようと思ってもらえるようにね。僕はそんなんなかったですけど。

 青柳 そんなことないと思います。

 能見 勝ちたい…というところからの振る舞いは大事よね。僕は顔に出してしまった。大事なところを任されて一生懸命投げて、(野手が)ちょっとしたエラーをして。“この試合(の重要性を)分かってるの”と思ってしまったことがあったのよ。そこで“大丈夫だよ”と鼓舞できる選手になってほしい。

 青柳 今の話を聞くと、人として大きくなることが目標ですね!みんなに応援される選手になります!

 <取材後記>対談前、能見氏が「聞いてみたい」と決めていたことがあった。「これだけ激変した(勝てるようになった)のは、絶対何かある」。詳しくは本記を読んでもらいたいが、それはくしくも同氏の現役時代と同じ「8割の力感」という気づきだった。

 その気づきを得るためには人に教えられるのではなく、マウンドで“痛み”という経験をしたからこそ得られるものという部分も2人は共感していた。「エース」や「開幕投手」の捉え方には微妙に違いがあったり、新旧の大黒柱の価値観を共有できた濃密な20分。取材者としても胸が躍る時間だった。(遠藤 礼)

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2023年2月4日のニュース