彦根総合 無名校躍進の裏に 名将・宮崎監督の口説き文句「共に井戸を掘る者は生涯の友」

[ 2023年1月25日 06:00 ]

彦根総合・宮崎裕也監督(撮影・河合 洋介)
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 【選抜候補校紹介 舞い上がる春(上)】第95回選抜高校野球大会(3月18日から14日間、甲子園)の出場36校を決める選考委員会が27日に開かれるのを前に、スポニチでは「舞いあがる春」と題し、吉報を待つ候補校を3回にわたって紹介する。初回は昨秋近畿大会で8強入りした彦根総合(滋賀)が、無名校から春夏通じて甲子園初出場に手をかけるまでの軌跡に迫る。

 無名校の挑戦は、かつて聖地を沸かせた名将に野球への情熱を取り戻させることから始まった。19年7月、彦根総合の管理職会議で生徒に夢を持たせる方法が話し合われ、ある計画が動き始めた。甲子園を目指そう――。

 05年まで女子校と野球部の歴史が浅く、県大会では初戦敗退が続いていた。そこで、まずは新たに監督を招くことにした。適任者はすぐに見つかった。しかし、その男は野球を離れ、県内の高校でバドミントン部顧問をしていた。北大津を春夏6度の甲子園に導いた宮崎裕也監督だった。

 宮崎監督は人事異動で北大津を17年限りで離れたのと同時に、野球の指導から退いていた。19年夏、彦根総合の松本隆理事長から監督就任要請を受けたものの、即座に断った。「もう野球への気持ちが消えていた」。それでも松本理事長は数え切れないほど、自宅に足を運んでくれた。その熱意に負け、20年4月、同校に赴任した。

 1年目は選手の勧誘に専念。100校を超える県内全ての中学校に足を運んだ。しかし反応は薄い…。落ち込んで帰宅した時、口説き文句をひらめいた。「共に井戸を掘る者は生涯の友。井戸の水に集まる者はひとときの友」。この言葉を県内の指導者にメールで送ると風向きが変わった。そうして集まった精鋭が現在の2年生28人。「実績のない学校に、僕の言葉だけを信用して入ってきてくれた」。確かな戦力と知将の指導力が合わさると、躍進が始まった。

 同校に赴任した際、松本理事長が全職員の前で「宮崎さんは5年で結果を出すと言うてます」と話し始めた。静まり返る先生たちを笑わせようと宮崎監督は言った。「そんなこと一言も言うてません。3年で行きます」。22年度内の今春選抜出場なら、まだ赴任3年目。あの時の冗談が現実になろうとしている。 (河合 洋介)

《松本隆理事長「人格にほれた」》彦根総合の松本隆理事長は、宮崎監督を熱心に勧誘した理由について「初めてお会いした時に人格にほれた。そこからは、宮崎さんを口説き落とすために押しに押した」と笑いながら回想する。学校から車で約10分の距離にある野球部専用グラウンドには毎日のように顔を出す。「経営者と指導者、選手の3つが一致団結して取り組んだ結果、ここまで来ることができた」と快進撃の一端を明かした。

 ▽彦根総合高校 滋賀県彦根市芹川町にある私立校。1948年に白鳩洋裁研究所として設立。彦根高等技芸専門学校、彦根女子を経て、06年に男女共学となり現在に至る。校訓は「明朗・英智・親和」。硬式野球部は08年創部。

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