担当記者が見た「人間・藤浪」 乱高下した10年間でも変わらなかった野球への愛

[ 2023年1月22日 07:00 ]

甲子園球場での会見を終え、グラウンドに深々と一礼する藤浪(撮影・北條 貴史)
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 【記者フリートーク】「藤浪担当」を命じられたのは、ちょうど成績が下降し始めた時期だった。高卒1年目から3年連続の2桁勝利をマークするなどスターダムを駆け上がった「明」を取材しておらず、不振の期間で味わった屈辱や苦闘など「暗」の部分を聞くことが多かった。

 外から見ていた時は新聞記者にも冷たく、付き合いの難しそうな印象を勝手に抱いていたが、接してみて分かる実像は全く違った。会食の席、時には釣り糸を垂らした船の上で…。いろんな感情、いろんな言葉で人間・藤浪をさらけ出してくれた。

 「いい記事をたくさん書いてもらえるように頑張ります」

 取材終わりには、いつもそんなことを口にしていた。だから、余計にマウンドで躍動する背番号19を伝える時の筆力は強くなった。「見てる人は、はい上がるストーリーとか、挫折とか好きですもんね」。ドラマのように浮き沈みの激しいキャリアを自虐的に笑ったこともある。

 近年「ピッチャー藤浪」のコールに聖地は大いに沸き、ピンチを背負うと自然と「頑張れ」の拍手が起こった。ブーイングが飛ばなくなったのは、ある意味でファンの求める“ハードル”が低くなってしまったからなのかもしれない。それでも、藤浪晋太郎の復活は間違いなく“甲子園の願い”であった。

 乱高下したタイガースでの10年。人間不信に陥ったこともある。てんびんにかければつらいことの方に傾くはずだ。だが、一つだけ変わらなかったものもある。

 「野球が嫌いになったことは一度もなかったですね」

 メジャーリーグは夢の舞台である半面、日本以上に苛烈でシビアな競争の場だ。悩み、苦しむこともあるだろう。それを覚悟の上、大好きな野球で最高峰に挑む右腕を、今年からは一人のファンとして見守りたい。(阪神担当・遠藤 礼)

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2023年1月22日のニュース