【内田雅也の追球】指揮官が期待する変身へ 冬の「独り練習」が勝負

[ 2022年11月22日 08:00 ]

<阪神安芸秋季キャンプ最終日>アップをするナイン(撮影・岸 良祐)
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 今季限りで現役を引退した福留孝介の言葉を思い返している。阪神を去る時、残した言葉だ。

 阪神退団が発表された2020年11月6日、鳴尾浜での2軍練習の前、2軍監督・平田勝男(現ヘッドコーチ)の求めに応じ、若手選手に「1人でやる練習を大切にしてほしい」と話した。そして「自分で限界をつくらず、もっともっとできると思ってやってほしい」。

 45歳まで現役を続け、日米通算2450本の安打を放った秘けつが垣間見える。プロで成功した先人たちの話を聞けば、必ずこの「1人練習」の重要性に行き当たる。

 阪神の先人なら、藤田平は選手寮「虎風荘」で昔あった電話番をすすんでやった。「先輩から誘われても断る理由になった」と砂を詰めたビール瓶で手首を鍛え、屋上でバットを振った。掛布雅之は夜、寮を抜け出して武庫川河川敷に行き、橋脚にボールをぶつけてゴロ捕球を繰り返した。

 阪神は21日、高知・安芸での秋季キャンプ、鳴尾浜での秋季練習を打ち上げた。もうチームでの練習はない。来年2月の春季キャンプ(沖縄・宜野座、具志川)まで自分で練習するしかない。

 監督・岡田彰布は「来年2月、選手たちがどんな姿を見せてくれるのか楽しみですね」と話していた。2カ月のオフシーズンでの成長、あるいは変身を期待していた。

 好例がある。「世界の盗塁王」で通算2543安打を放った福本豊が阪急(現オリックス)1年目のオフを終え、2年目(1970年)の高知キャンプを迎えた。フリー打撃で実績のあった足立光宏が投げたカーブを右翼席に放り込んだ。監督・西本幸雄が驚き、うれしそうに「そのバッティング、誰に教わったんや?」と問うた。福本は「ただ、監督に言われた通りに素振りしていただけです」。寮の庭の木の葉先を目がけ、体の軸で回転する「西本打法」を繰り返した成果だった。

 選手はひと冬越えて見違えるようになる。前回監督を退いた2008年以来14年ぶりに古巣に戻った岡田は「ちゃらんぽらんな選手はおらん」と感心していた。オフもいわゆる「バンケット・リーガー」(宴会選手)になる者はいないだろう。

 二十四節気で言えば、立冬から小雪に入る。季節はもう冬だ。冬の間、1人――独りと書くべきか――でやる練習が勝負である。 =敬称略=(編集委員)

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2022年11月22日のニュース